足立倫行のプレミアムエッセイ

2020年6月6日

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〈復権したドタバタ王の孤独〉

 ついで私は、結婚について聞いた。

 この時志村さんは38歳、いつ結婚してもおかしくない年齢だ。だが、浮いた噂は豊富でも、「決まった恋人なし」が芸能界の常識だった。

 「結婚したいけど、僕、エゴイストだからできないんですよ」

 色白の肌がピンク色になっていた。

 「2、3カ月は女性に合わせられるけど、慣れると自分のペースで暮らしたくなる。必要な時以外は会いたくないし、話さえしたくない。無名時代からずっとこのパターンです。相手に申し訳ない、自分が悪いと思うんですが、どうしても直せない」

 前年度の芸能人所得番付で実質的にビートたけしと1、2位を争う「笑いの王様」は、番組製作現場でも私生活でも、孤独だった。

 「親父と酒飲んだことなかったから、自分の息子と飲みたいんですけどね、本当は」

 酔ってはいなかった。疲労の色もそれほど濃くはない。だが、黙々とグラスを重ねるその横顔は驚くくらい寂しそうに見えた。

 私の書いたルポのタイトルは〈復権したドタバタ王の孤独〉だった。

 それから32年。志村さんはお笑いの最前線を疾走し続け、突然逝った。しかも、家族、友人、事務所スタッフ、ファンの誰にも看取られることなく、たった一人で。

 新型コロナウイルスに感染して亡くなると、感染リスクを避けるため遺体は納体袋に密封され、病院から火葬場に直接運ばれ、一般の人とは別の時間帯に火葬に付される。

 志村さんの場合も、実兄など近親者が遺体と対面することなく火葬されたのだ。

 志村けんさん。幼児から高齢者まで日本中の人々に愛された稀代の「笑いの王様」は、最期まで「孤高の人」でもあった。

  
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