足立倫行のプレミアムエッセイ

2020年2月1日

»著者プロフィール

 昨年末から今年にかけて、オーストラリアの森林火災のニュースをよく見た。近年のカリフォルニアやアマゾンの火災と同じく、地球規模の気候温暖化の具体例と感じたからだ。

 が、テレビ画面に映ったオーストラリアの消失地域の中に、南東部のカンガルー島(サウスオーストラリア州)が含まれていると知って、慌ててパソコンに向かった。

 カンガルー島は州都アデレードからセスナ機で約30分(対岸のケープ・ジャービスからフェリーで約45分)の緩やかな丘陵の島、大きさは東京都の2倍ほどである。

 人口は約4400人で、ワイン、蜂蜜、羊毛を産出するが、一般には「オーストラリア産固有生物の宝庫」として知られている。

 約1800種の植物は本土で減少したり絶滅したものが多くあり、そこにコアラやカンガルーやワラビー、ハリモグラ、オオトカゲ、ポッサム、エミュー、ペンギン、アシカ、オットセイなど、200年前に生息していた動物たちがそのまま棲みついている。

 全島のおよそ4分の1が国立公園や自然保護区で、エコツアーが一大産業なのだ。

 私も以前、オーストラリアの生態系の取材のために訪れたことがあった。

 ところが、今回ネットでカンガルー島の森林火災を調べてみて驚いた。消失地区が島の西半分に集中しているのだ。

 ということは、オーストラリア有数のフリンダーズ・チェイス国立公園の大部分がそっくり焼けてしまったことになる。

 1月中旬の段階では、島の半分にあたる約21万5000ヘクタールが消失、2人死亡、家屋数百棟が被災。コアラだけで3万頭以上が火災の犠牲になった、とのこと。

 昨年9月に始まったオーストラリア全体の火災は、これまでのところ焼失面積1000万ヘクタール(北海道と岩手県の大きさ)、消失住宅約2000戸、死者約30人、死亡した野生動物が約10億匹と報道されている。

 野生動物の被害が必ず言及されるのは、コアラ、カンガルーなどオーストラリアの固有種がそれだけ貴重だからだろう(そう考えると、「固有種の宝庫」と称されるカンガルー島の被害は、今回のオーストラリア火災の「雛形」と言っていいのかも知れない)。

 火災の原因については、本土でもカンガルー島でも、いまだ不明である。

 落雷、タバコの不始末、野焼き、放火などが指摘されているが、背景には、昨年のオーストラリアの年間平均気温が過去最高で、平均降水量が過去最少だったことがある(干ばつ自体が人為的な温暖化の結果とも言える)。

 もっとも、本土、カンガルー島、ともに現在も延焼中なので、被害の全容はまだわからない。都市生活や社会インフラ、産業への影響、合計損害額などは、火災が終息してからの調査を待たなければならない。

 私がカンガルー島を訪れた時、一番興味があったのはハリモグラとカモノハシだった。

ハリモグラ(pelooyen/gettyimages)
カモノハシ(Frank Fichtmüller/gettyimages)

 総排泄孔と生殖孔が同一の単孔類。つまり卵を産む哺乳類である(他にはパプアニューギニアの別種のハリモグラしかいない)。

 固有種の中でも特に希少なためか、2000年のシドニー・オリンピックの際には、大会マスコットのモデルがコアラやカンガルーではなく、ハリモグラとカモノハシ、それに(人間そっくりの笑い声を出す)ワライカワセミだった。

 バスケットボールを一回り大きくしたサイズのハリモグラは、昼間に道路を横断したりするので、誰でも簡単に見つけられる。

 けれど、その生態がわかっできたのは最近のことだ。鋭いハリは毛の変化したもので1本づつ動かせること、直径1センチ半ほどの小さな卵を産み、雌の乳房は存在せず、仔は母の腹部から滲み出る乳を吸って育つこと、後脚が後ろ向きであり歩く時は足首を180度回転させて進むこと、7歳で成獣になり50歳近くまで生きることなどは、カンガルー島にある〈ペリカン・ラグーン野生生物研究センター〉の長年の研究で判明した。

関連記事

新着記事

»もっと見る