(6)朝鮮人民軍総参謀部公開報道(6月16日)
連絡事務所が爆破された16日の朝、金与正談話の予告通りに朝鮮人民軍総参謀部が表舞台に出てきた。「公開報道」という異例の形で声明を発表したのである。
「党中央委員会統一戦線部と対敵関係部署から、北南合意に従って非武装化された地帯に軍隊が再び進出して前線を要塞化し、対南軍事的境界をさらに強化するための措置を取れるように行動方案を研究することに関する意見を受け入れた」という。
さらに注目すべきは、「両意見を迅速に実行するための軍事的行動計画を作成して、党中央軍事委員会の承認を受け取ることになる」としている点である。党中央軍事委員会の委員長は金正恩であり、ここで金正恩が出てくる可能性が暗示されている。
報道は「わが軍隊は党と政府が取るいかなる対外的措置も軍事的にしっかり保証する万端の態勢を整えている」ことを繰り返している。ただ、それが何を意味するのかは明らかではない。
(7)金与正朝鮮労働党中央委員会第1副部長談話(6月17日)
爆破翌日の『労働新聞』2面は連絡事務所爆破に関連する記事一色で、金与正談話はその中央に掲載された。
従来の主張を繰り返すとともに、「文在寅」の名を出さないまでも、「大統領」や「国家元首」という表現で強く非難し、とりわけ文在寅大統領が15日の「南北共同宣言20周年」式典に送ったビデオメッセージが「言い訳と責任回避、根強い事大主義」だったと強く非難した。文在寅大統領はこの演説で「対話の窓を閉じない」ことを北朝鮮に呼びかけていた。
「事大」というのは北朝鮮が重視する「主体」の対義語で、大国、ここでは米国に寄り添う政治を指す。金与正氏は「南北合意よりも『同盟』が優先であり、『同盟』の力が平和をもたらすという盲信が、南朝鮮を継続的屈従と悪質な裏切りの道に導いた」と主張した。米国の顔色を見て南北合意を履行しなかったことに対して批判しているのである。
談話の末尾は、「今後、南朝鮮当局者達ができることは、後悔と嘆きだけである」「信義を裏切ったことがどれだけ高い代償を払うことになるのかを南朝鮮当局者達は、流れる時間の中で痛感するであろう」との表現で締めくくられている。
(8)朝鮮人民軍総参謀部代弁人発表(6月17日)
爆破翌日の朝、朝鮮中央通信は朝鮮人民軍総参謀部代弁人による軍事行動計画の発表を報じた。「総参謀部は既に16日、次の段階の対敵軍事行動計画方向について公開報道した」と前日の報道に言及したうえで、今後の行動計画を以下のように列挙した。
「西南海上前線」は、南北間の境界線が確定しておらず、しばしば海上での軍事衝突の舞台となってきた黄海上の境界地域を指している。2010年に北朝鮮軍が砲撃した延坪島もこの地域にある。
1.金剛山観光地区と開城工業地区に同地域の防御任務を遂行する連隊級の各部隊と必要な火力区分隊を展開する。
2.軍事合意に従って非武装地帯から撤収した民警哨所を再び進出展開し、前線警戒勤務を強化する。
3.西南海上前線をはじめ全ての前線に配置された各砲兵部隊の戦闘当直勤務を増強し、全般的前線で前線警戒勤務レベルを第1号戦闘勤務体系に昇格させ、境界地域付近で通常の各種の軍事訓練を再開する。
4.全ての前線で対南ビラ散布に有利な地域(区域)を開放し、わが人民の対南ビラ散布闘争を軍事的に保障し、隙のない安全対策を立てる。
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