中国 覇権への躓き

2020年6月25日

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加茂具樹 (かも・ともき)

慶應義塾大学総合政策学部教授

専門は現代中国政治外交。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同校法学部准教授等を経て2015年4月に同校総合政策学部教授に。16年10月、外務省に転籍して在香港日本国総領事館領事を務め、18年10月に復職。
 

中国の国家安全において
共産党の安全が最重要

 なぜ、習近平指導部は、いま新しい対香港政策を発表したのか。その短期的目的は、9月に香港で実施される立法会議員選挙の対策であろう。同法の立法によって、立候補予定者は香港統治に関する政治的立ち位置を鮮明にする圧力を感じるだろう。しかし、そうした選挙対策だけを目的としているのであれば、新たな立法にまで取り組む必要はない。

 中長期的な意味において、「決定」の目的は国家安全という国内政治の文脈にある。14年に指導部は「総体国家安全観」という概念を提起していた。そのなかで国家安全にかかわる領域を政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核の11項目に整理した。その後に海外権益が、さらに新型コロナウイルスの感染拡大後には生物安全が加わり13項目になっている。

 「決定」との関係において重要なことは、主権や領土の安全を意味する国土安全や軍事安全保障を意味する軍事安全よりも、共産党の安全を意味する政治安全が重要だと位置付けられていることである。共産党幹部に「総体国家安全観」を概説する書籍では、香港を経由した反政府勢力の浸透を警戒し、香港における国家安全を政治安全の重要事項として位置付けている。

 いま一つの「決定」の中長期的な目的は国際政治の文脈にある。指導部は、新型コロナ感染症の世界的な蔓延が、米国が主導してかたちづくってきた既存の世界の枠組み(世界格局)と力の分布(力量対比)に大きな影響を与えているととらえている。そして、今後、起こり得る大きな変革への備えの1つとして「決定」を位置付けているのかもしれない。先の全人代で習近平は、人民解放軍と武装警察代表団に対して「今回の感染は世界の枠組み(世界格局)に深い影響をもたらし、わが国の安全と発展にも深い影響をもたらしている。最悪の事態を想定し(堅持底線思維)、さまざまな複雑な状況に迅速かつ有効に対処し、国家の主権、安全、発展の利益を断固守り、国家の戦略的、大局的安定を維持しなければならない」と述べていた。

 同様の認識を習近平は、昨年1月と9月に開催された共産党の中堅以上の幹部に対する会議でも語っていた。習近平は今年4月末に地方経済情勢を視察するために西安を訪問した際にも「歴史的な大きな進歩は重大な災難の後に生まれている」と述べ、感染症を封じ込めたことは「危機をチャンスに変える歴史的な機会でもある」と述べていた。

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