中国 覇権への躓き

2020年6月25日

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加茂具樹 (かも・ともき)

慶應義塾大学総合政策学部教授

専門は現代中国政治外交。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同校法学部准教授等を経て2015年4月に同校総合政策学部教授に。16年10月、外務省に転籍して在香港日本国総領事館領事を務め、18年10月に復職。
 

 こうした認識のもとで指導部は、「人類衛生健康共同体」というスローガンを掲げて、感染症対策の国際協力を通じて相手を取り込み味方を増やす協調外交を展開する一方で、WHO総会への台湾の参加をめぐって「1つの中国」原則という自国の利益を力を背景に相手に押しつける強制外交を展開している。

 国際社会は、「決定」を、香港返還後50年間は香港社会の「高度の自治」を維持する「一国二制度」の原則を損なうもの、と懸念している。そして国際社会からの批判を厭わず、共産党の安全を堅持しようとする指導部の姿勢は強制的な行動だとみなしている。

 しかし、指導部の新しい対香港政策だけを見て、強制的な行動だ、と単純に理解すべきではない。指導部は、既存の世界の枠組みが大きく変革する時期ととらえ、より有利な活動空間を獲得するために協調外交と強制外交を同時に展開しているようにみえる。そして指導部は、権威主義体制が多い発展途上国には、中国による協調外交を展開する余地が広いと見ているのかもしれない。外交の二面性には、国力が増大して外交の選択肢が増えた自信と、世界の枠組みが大きく流動化していることに警戒しながら、自国の利益を守ろうとする強い決意が現れている。

 延期となった習近平国家主席の訪日は、日本外交においても、また中国外交にとっても重要な課題である。流動化する世界の枠組みにおいて、より有利な地位を維持するために、隣国の大国である日本との安定した関係を欲する指導部は、協調の外交を展開するだろう。同時に、より有利な東シナ海をめぐる国際秩序をかたちづくるために、躊躇なく自らの利益を強制する外交を展開する。日本の対中外交は重要な岐路にある。

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◆Wedge2020年7月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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