2024年4月24日(水)

子ども・家庭・学校 貧困連鎖社会

2012年6月27日

 日本の母子家庭の就労率は84.5%(2006年調査)と世界でもっとも働く集団である。(アイルランド23%、イギリス41%、アメリカ60%、ノルウェー61%、スウェーデン70%、財団法人家計経済研究所のワンペアレントファミリーに関する6カ国調査)

 ところが、平均年収が213万円(内、就労による年間就労収入は171万円であり、全世帯平均の563.8万円の38%に止まる)とワーキングプアであることは疑いない。(厚労省2006年全国母子世帯等調査報告書)

 母子世帯以外の貧困率11%、それと比べ母子のみの世帯の子どもの貧困率は65%と、母子世帯への政策的な支援が子どもを貧困から解放するためには必要なことも明らかだ。

 また母子世帯で生活保護を受給している世帯は12.1%となり(2000年と比べ2.1%増えている)、その半数は働きながら不足分を受給している。

ひとり親世帯と不登校、貧困との関係

 中学生の子どもをもつ生活保護世帯(埼玉県)でひとり親家庭は86%(うち母子家庭80%)だった(2010年)。その中で、小、中学校で不登校を経験した子どもは18.1%にもなる。

 東京都の板橋区による調査(2009年)も同様の結果を示している。

 板橋区の生活保護世帯の中学生の不登校発生率は11.8%。生活保護や就学援助を受けない中学生の4.8倍にもなっていた。

 今まで、不登校は「神経症」型不登校と考えられ、家庭の経済力など、貧困との関連は考えられてこなかった。文科省もそんな調査はしていない。ところが、近年、板橋区と同様の調査結果が相次ぎ、筆者の調査(『ドキュメント高校中退』筑摩書房 (218~221ページ参照)でも貧困、格差と不登校は強い相関を示した。

 中学生を持つ生活保護世帯の8割が母子世帯となると、ひとり親世帯の子どもたちの不登校との関係を検討しなければならない。実際、小中学校での不登校から高校の中退につながり、そして社会で周縁化していくというコースを歩む若者は数多い。

子どもを選ばない「子どもの家」の存在価値

 最後に、再び、「子どもの家」に戻る。「子どもの家」の大切さは、子どもを選ばないということにある。どのような困難を抱えていても、小学生でなくても、「だれが来てもいい」「だれでも居ていい」という遊びの場、休息の場なのである。社会で孤立して生きることを強いられているひとり親世帯の親と子どもたちにとって、どんな問題でも「受け入れられる場」、いざという時の「駆け込み場所」になっている。

 今、日本社会の貧困問題にとって、もっとも支援が必要なひとり親、とりわけ母子世帯の母親に対する養育支援、子どもへの学習支援、そして就労へつなぐ仲間づくり、そんな役割を果たせる地域の場として貴重な居場所なのである。そしてなにより、社会の谷間におかれている子ども・若者たちがつながり助け合って生きていける地域の居場所になっている。そんな居場所が日本全国の地域に必要になっている。それが、大阪の「子どもの家」なのである。

 大阪市の財源問題は深刻であることには間違いないが、「子どもの家」は地域の仲間づくりを通じてコミュニティ形成にまでつながる可能性がある。「山王こどもセンター」や「こどもの里」に集まってくる子どもたちは、山王や釜ヶ崎で野宿者たちの命を守る「夜まわり」など支援活動にも参加している。

 そんな活動を体験した子どもたちが将来、自分たちの暮らしだけではなく、地域のために頑張る大人になることを期待してもいいのではないか。大阪市の生活保護費は約3000億円である。子どもの家を廃止してカットできる予算は約5000万円。この5000万円を削ることで、貧困に苦しむ子どもたちを救う手段が減り、将来の生活保護受給者を増やしてしまうことになるのは、容易に想像できる。結果的に財政はより苦しくなるのではないだろうか。

 橋下さん。あなたはそれでもやはり「子どもの家」をつぶしますか。

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