“情報戦の主戦場”に
ナスララ師は「人々が爆発の怒りを感じるのは理解できるが、怒りは内戦を引き起こそうとする試みを阻止するためにとっておけ」とイスラエルや米国への警戒を呼び掛ける一方、いざとなれば軍事力を使ってベイルートを制圧することも示唆、ヒズボラを追い込まないよう警告した。米国はヒズボラを国際テロ組織と指定している。
ヒズボラが窮地に陥っている背景には、ヒズボラを設立させた後援者のイランの力が弱体化していることが大きい。爆発後、ザリフ・イラン外相がベイルート入りし、「レバノンの安全はイランの安全でもある」と支援を申し出たが、食料援助などにとどまり、逆に米国の経済制裁で苦境にあるイランの力の限界が露呈される形となった。
こうしたイランに追い打ちを掛けたのが、最近のイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)間の関係正常化の合意だ。仲介したトランプ米政権はイラン包囲網の強化として自画自賛しているが、イランにとってみれば、自分たちを監視・偵察するイスラエルの橋頭保がペルシャ湾の対岸にできたことを意味し、深刻な脅威と受け止めざるを得まい。
ロウハニ大統領は「イスラエルに(イランを監視する)足場を築かせるな」とUAEに警告、今後イランが強硬に対応することもあり得ることを示唆した。ベイルート筋によると、イランが懸念しているのは、イスラエルとUAEが国交を結べば、ドバイが“情報戦の主戦場”になり、イラン人にイスラエル情報機関の触手が伸びることではないか、という。
ドバイは中東屈指の金融センターであり、ペルシャ湾岸のショッピングの中心地。イラン人にも人気があり、常時、多数が訪れている。だが、イスラエルとの関係正常化でユダヤ人がドバイを訪問するようになれば、この地がイラン人とユダヤ人の接触の場になり、イスラエルの情報機関モサドがイラン人をスパイに取り込んでしまいかねない。こうしたことをイランは恐れているようだ。
ヒズボラのナスララ師はFBIによる爆発原因の捜査に反対を表明する一方、爆発がイスラエルによる工作だと判明すれば、「彼らは同様の対価を支払うことになる」と恫喝した。ヒズボラへの圧力をイラン包囲網強化の一環と見れば、トランプ政権、イスラエル、親米アラブ諸国が中東全域で連動し、その動きを加速させているように映る。しばらく静かな中東にきな臭ささが漂ってきた。
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