問題は、感染症対策が外出自粛しかないなら、経済にとてつもない打撃を与えるということだ。感染症学者も、自分たちは経済のことまで考えて提案していたわけでなく、コロナでの死者を最小限に抑えるよう提案してきただけで、経済のことは経済の専門家の意見を聞いて、最終的には政治家が決めてほしいと言い出した。これはもっともなことである。
政府は7月3日、専門家会議を廃止し、新たに「新型コロナウイルス感染症対策分科会」を立ち上げた。メンバーには、専門家会議の座長、副座長を含めた感染症専門家8人と知事、マスコミ関係者、経済学者などが入った。時間がないので、オーディションではなく、これまでの人材プールの中で選ぶしかなかった。
政治主導が難しい国会同意人事
オーディションは十分な時間がないときには難しい。しかし、日本銀行、会計検査院、原子力委員会、公正取引委員会など6月1日現在、39機関275委員が就いている国会同意人事がある。これには十分な時間がある。
かつて、名前が漏れたら同意人事に反対するという慣行があった。これは、07年7月の参議院選挙で多数を取った民主党が、そういう方針を打ち出したからだ。この人物はふさわしくないと、理由を述べて反対すれば良いのだが、国会同意人事は275人もいる。いちいち反対理由を考えるのも面倒だから、漏れたら反対というのが、野党の嫌がらせ戦術になったのだと私は思う。しかし、これで行くと、選びたくない人物の名前を漏らせば人事を潰せることになる。
さすがに、13年には与野党合意で、これは止めようということになったのだが、いまだにその慣行が残っているようだ。しかし、政府がさまざまなルートから調べて委員を選定しようとすれば、必ず名前が漏れるものである。
官僚主導でなく国民に選ばれた政治家が主導するというのが、当時の民主党の方針だったと思うのだが、漏れたら反対では、官僚が秘密裏に選ぶしかない。民主党は、政府の重要な委員を、官僚が適当に選んで良いとしていたわけで、当時から首尾一貫しない政党だったわけである。
日本の場合、同意人事は、議院運営委員会が審査して10日程度後に本会議で議決されることになっている。議院運営委員会とは、本会議の日程、議題、発言者などを決定する委員会である。しかし、同意人事を本来のものにするためには、委員候補を、関連の委員会で審査すべきである。同意人事が多すぎて手が回らないというのであれば、同意人事の数を絞り、関連の委員会で、衆参手分けしてヒアリングをすればオーディションができる。
同意人事が多い割には、国民の積み立てた年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund、GPIF)の運用責任者が同意人事になっていないのは不思議である。国民なら、自分の年金を運用しているのがどんな人か、当然の権利として知りたいのではないか。
大学は改革できないと、政治も官僚も言い募るが、教授の公募、すなわち、オーディションは一般化した。もちろん、コネも好き嫌いも予算獲得手段としての人事も、なんでもありなのだろうが、それでもあまりにいい加減なことはできなくなっている。
政治と官僚は、大学よりも遅れている。あらゆる分野で、課題解決に向けて適切な人材をより広く選ぶことが必要だ。
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