「適切な支援のためには個々の能力向上が重要だが、個人の責任論に陥らないよう、チーム全体で情報と責任を共有する仕組みになっている。日本もチームマネジメントが鍵」と英国の事情に詳しい西田淳志・東京都医学総合研究所主任研究員は言う。
日本にも「初期チーム」の先取り事例がある。福井県敦賀市、敦賀温泉病院の「お出かけ専門隊」だ。
6月29日に開かれたケア会議に同席させてもらった。ある介護施設を訪問し、5名のお年寄りのアセスメントを行った精神保健福祉士と薬剤師が、精神科医である玉井院長や看護師に内容を報告していた。
85歳女性。認知機能判定ツールの結果によれば、認知症疑いから軽度の点数で、自立度も高い。しかし、長時間じーっとしているのが気になるとの報告だ。
「スタッフはそう捉えていないが、意欲の低下が起きているのではないか。今後、認知機能がさらに落ちる可能性がある。ただし、意欲の低下の原因はまだわからない。認知症なのか、脳血管障害、身体疾患、薬の影響かもしれない。よく調べた方がいい」。そんな議論から、かかりつけ医に相談するよう施設に提案することになった。
お出かけ専門隊は敦賀市の地域包括支援センターと提携する形で11年夏に始まった。地域包括からの情報提供で数十件の事例に対応してきたが、半分以上は中等度以上だったという。もっと早い段階から支援するため、お出かけ専門隊の側から介護施設に出向く取り組みを始めている。
玉井院長がなるべく早い段階での支援にこだわるのは、福井県若狭町の取り組み実績があるからだ。
「今日は何月何日ですか?」「今から言う数字を逆から言ってもらえる? 6、8、2」
福井県若狭町の地域包括支援センター職員で、看護師の高島久美子さんが、Bさん(87歳)の自宅を訪れていた。今回は初回の調査から約1年が経っており、変化の把握が目的だ。複数の認知機能判定ツールを用いた聞き取りが続いていく。
途中に挟まれる「娘さんは梅の収穫で忙しいのかな」「昨日は亡くなったお父さんが夢に出た」といった会話は、勝手知ったる間柄だからこそ。高島さんは01年から11年間、65歳以上のお年寄りを訪問し続けてきた。その数すでに1500人に上る。