また、玄葉外相は、サハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン3」への参加や、今秋以降マツダとトヨタがウラジオストクで自動車の組み立て生産を開始することなども現地で強調していた。これらの地道なアプローチの中で、「両国関係の発展が、両国の戦略的な利益に合致する」(玄葉外相)ことをロシアにも認識させ、領土問題で譲歩を引き出したいという戦略である。
だが、既述のように、領土問題に対する両国の認識は極めて大きく乖離しており、日本の戦略が何らかの良い結果を導く展望は、現在のところ望めない。
ともあれ、このようなロシア側の動きを見ると、プーチン大統領は再就任前から日本との対話を重視していく姿勢を示す一方、メドヴェージェフ首相は極めて強硬な北方領土対策を取っているかのように見える。
しかし、それが両首脳の方針の違いであると考えるのは安易かも知れない。むしろ、プーチン大統領は、強硬な北方領土対策によって、自身の大統領再就任後のアピールをかねて、着々と北方領土の実効支配を進めたいのではないだろうか。だが、強硬一辺倒では日本の反発を強めすぎてしまう。そこで、メドヴェージェフ首相に強硬政策を進める役割を担わせ、自身は日本側に交渉妥結の期待を持たせるという「役割分担」をして、日本とのビジネスや技術における協力は都合良く進めていくという思惑を持っているのではないかという気もする。
解決したウクライナとロシアの領土問題
一方、日本の北方領土問題が一向に進展を見ない中、実は最近、ロシアは隣国ウクライナとの領土問題を解決していた。
7月12日、プーチン大統領とウクライナのヤヌコビッチ大統領が、ウクライナのヤルタで会談し、黒海と内海であるアゾフ海を結ぶケルチ海峡付近の国境画定を巡る問題で基本合意し、共同声明に署名したのである。まだ、法的な技術問題、すなわち、国境画定の条約を締結する必要があるが、それも近いうちに行われる模様である。
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この結果、ケルチ海峡の境界はほぼウクライナ側の主張通りとなった。すなわち、全長数キロのトゥズラ島や航行可能な水路はウクライナ領となることが決まった。一方、水路は両国が共同使用することとなり、またこの海域に存在している石油・天然ガス田の開発も共同で行われることが決まった。ウクライナは、希望していた領土を確保できた一方、水路の通行料などの収入を失い、また、資源開発から得られる利益もロシアと山分けになる。ロシアも当初の要求から譲歩したが、水路や資源の利権は半分確保できたことから、痛み分けの結果と報じられた。
勝者はロシアだった?
しかし、これまでの経緯を考えれば、明らかにロシアの利得のほうが大きいと思われる。