2024年4月26日(金)

解体 ロシア外交

2012年8月3日

 1997年の決定にも拘わらず、ロシア側はトゥズラ島のウクライナ帰属に疑問を提起しただけでなく、アゾフ海の領有問題とセットで解決すべきだとも強調し、まさにクリミア問題を蒸し返しての強硬姿勢を取り始めた。こうして、長い交渉を経て、ようやく最近になって妥結を迎えたといえるのである。

 このような経緯を考えれば、決して痛み分けではなく、ウクライナは自国領土に言いがかりをつけられて、権益だけは都合良く奪われた形にも見えないだろうか。

今後も難航しそうな領土交渉

 実は、ロシアは近年、相次いで領土問題を解決している。2004年の中露国境協定で中国との領土問題を解決したのを皮切りに、ノルウェー、アゼルバイジャン(拙稿「尖閣諸島問題は北方領土問題に影響するか?」を参照されたい)、そして今回のウクライナである。

 それらの解決の原則は、フィフティ・フィフティ、つまり50%、50%での分割であった。そのため、フィフティ・フィフティの原則で北方領土の解決を目指すのが現実的だとする意見が日本でもあったし(岩下明裕『北方領土問題―4でも0でも、2でもなく』(中公新書、2005年)が特に有名だが、大きな反発があったのも事実)、3月のプーチン大統領就任前の「引き分け」発言は、その原則をロシアが想定していることを想起させる(拙稿「プーチン返り咲き 緊張の中露と北方領土の行方」)。

 しかし、現実に解決してきたケースを見ると、解決によって、ロシアが国際戦略を有利に進められるようになったり(中国、アゼルバイジャン)、エネルギー開発や実効支配が可能になったり(ノルウェー2 、ウクライナ)という大きな利点を得られたと分析できる。つまり、利益計算がペイすれば、ロシアは領土問題の解決を目指すと考えられる。

 果たして、北方領土問題で譲歩することで、何かロシアはメリットを得られるだろうか。北方領土問題が解決しなくても、日本とビジネスや技術での協力が可能な以上、ロシアにとってメリットはほとんどなさそうだ。実際、日本との協力関係を維持するために、上述のように、プーチン大統領が「懐柔役」となって、日本の心情をなだめつつ、期待を持たせつつ、ロシアとの協力に引き込んでいるようにも見える。したたかなロシアの政治家たちを前に、今後も日本の北方領土問題の交渉は難航しそうである。

2:ロシアとノルウェーは北極海の一部であるバレンツ海沿岸の境界線問題で、70年代から(当時はソ連)交渉を始めていたが、一部の境界については2007年に合意し、残りの境界部分については、2010年4月の首脳会談で基本合意した後、9月に正式な条約締結にまで至った。その条約によれば、係争海域だった17万5000平方キロメートルの海域は等分され、200海里経済水域外の海域については国際法に従い分割されることとなる。また、領海をまたぐ海底油田についても共同開発に向けたルールを決めた一方、漁業分野では両国委員会による従来の枠組みを残した。この動きは、「40年越しの締結」と歴史的な意義が強調され、同条約の利点として(1)国境画定による情勢安定、(2)天然資源開発の展望、(3)国際法の枠内での合意が強調された。他方、メドヴェージェフ大統領(当時)は締結後の協力として、すでにノルウェー企業が開発に参加するバレンツ海のガス田のみならず、より東方のヤマル半島でも化学工場建設などで同国の技術を受け入れたい考えを示すなど(http://japanese.ruvr.ru/2010/09/15/20612796.html)、多面的な協力深化の契機となった。 

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