台湾は中国の野望であり脅威
軍備近代化進める人民解放軍
中国共産党が持つ、支配に対する執着と、国家再生に向けた情熱は、どこへ向かうのか。それは台湾だ。かつて1945~49年の内戦で中華民国が中国共産党に敗北して以降、中華民国が最後の砦として自治を獲得した島である台湾は、民主主義的な自由市場経済という代替モデルを提示することで、中国大陸の圧政及び権威主義的な資本主義経済制度に対して特別な脅威となっている。
台湾は、自由で開かれた制度を選択することで政治的にも経済的にも成功することができるという力強い例を提示していること自体、中国共産党にとっては脅威なのである。台湾はこれまで、ひっきりなしに中国共産党による協力要請や強制の努力の対象となってきた。このような「努力」は、台湾に対する投資・通商を拡大することで、台湾の大陸に対する依存度を高めることを目的に含み行われてきた。
2020年の台湾総統選に向けて、中国共産党は現職の蔡英文氏の再選や、与党民進党の躍進を阻むためにあらゆる手を尽くした。これらは、香港における人民の権利の制限や、党の高圧的な対応に基づいたものだったが、全くの逆効果となった。
ただし、不利な状況が生まれたことで、習主席にとって台湾統一に向けた希望をより一層強くする可能性を高めたのも事実だ。王毅外相は台湾総統選後、「台湾は中国の領土からは切り離すことができない地域である」とコメントし、さらに「国家を分断しようとする者には、今後1万年にわたって暗い運命が待ち受けていることだろう」と述べている。
さらなる懸念材料が、中国人民解放軍が台湾海峡を越えて台湾を侵略するための準備を加速させる可能性である。習主席が国家主席としての任期を廃止してからというもの、習主席は自身の任期中に台湾統一を無理やりにでも達成することを目指しているのではないかという憶測が一部で流れた。
習主席の下での中国共産党関係者の発言は攻撃的で、多くが軍事行動も厭わない雰囲気を漂わせている。19年には、習主席が演説の中で「台湾は大陸と統一されなければならないし、されるであろう」と述べている。中国の台湾海峡を越えた攻撃に向けた準備には、海軍・空軍の急速な近代化や、爆撃機、戦闘機、偵察機などによる台湾付近上空の監視飛行の拡大が含まれている。
台湾を狙った協力の要請・強制の持続は、戦争勃発という最大の危険を体現するものかもしれない。だがそれは、アジア太平洋地域における一国支配(ヘゲモニー)を達成するという、中国共産党が持つより大きな目標の中の最初の優先課題でしかない。人民解放軍は、日本の小笠原諸島や、その他の活火山諸島、そして米国のマリアナ諸島を含む第2列島線まで戦力投射能力を拡大するために、地上、海上、航空システムを近代化した。
中国は、この地域の国や領域に対する強制力について、軍事力を見せつけるだけではなく、経済的な強制力、情報戦や海上武装民兵の活用などを通じて達成することを望んでいる。日本が今後の外交政策の方向性を考えるにあたっては、中国の行動が日本の国家安全保障に甚大な影響を与えることを念頭に置くことが重要である。
※本稿は、H.R.マクマスター著『Battlegrounds』(HarperCollins Publishers)より抜粋・加筆・再構成した。
■トランプVSバイデン 戦の後にすべきこと
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Part 2 激化する米中5G戦争 米国はこうして勝利する
Part 3 選挙後も米国の政策は不変 世界情勢はここを注視せよ
Part 4 変数多き米イラン関係 バイデン勝利で対話の道は拓けるか
Column 1 トランプと元側近たちの〝場外乱闘〟
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Part 6 民主主義を揺るがす「誘導工作」 脅威への備えを急げ
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