2024年11月22日(金)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年8月16日

ライアンは「白人・男性・(地盤が)中西部」原則に
忠実な選択

 その点から言えば、ライアンという判断はさほどサプライズではない。「白人・男性・中西部」のラインは守られているからだ。少なからずの事情通がライアン説を否定してきたのは、彼が下院議員であるためだ。非常時の大統領職継承権では副大統領に次いで三番目に下院議長が位置している。しかし、実際の大統領選挙では下院議員が候補になることはほとんどない。概ね州知事か連邦上院議員というのが定説だった。ロムニーはこの定説を覆した。アメリカの政治常識的には一定のサプライズである。

 さらにもう1つ、ライアンの選択はロムニーの「経済保守路線で闘い抜く決意」の象徴としてはいい選択だ。外交や社会保守政策は棚上げし、減税と「小さな政府」路線の徹底である。言い換えれば、ロン・ポール支持層らによる、党内「分裂」や「反逆」の動きを前もって牽制する、ティーパーティ票対策とも言える。ライアンのような強硬的な経済保守であれば、ポール派も同調しやすい。

2008年「ペイリン・ショック」のトラウマ

 ロムニー陣営は「奇襲戦」ではなく、保守系有権者にロムニー陣営の「メッセージ」をしっかり浸透させて党の分裂を予防する手法を優先した。ライアンはそのパートナーとしては適役だ。

 「奇襲戦」で思い出されるのはサラ・ペイリンだ。忘れもしない2008年8月末。私はデンバーの民主党大会にオバマ陣営関係者の招待で列席していた。4日間の日程を終えた直後、取り乱した民主党関係者から「マケイン陣営が女性を副大統領候補に選んだ」という叫び声が携帯電話に入った。それから数日は民主党とオバマ陣営は文字通りのパニックに陥った。オバマの見事な指名受諾演説が帳消しになったかのような騒ぎだった。

 フェミニズム運動を擁護し、ヒラリー・クリントンというアメリカ史上もっとも大統領に近づいた女性を輩出してきた民主党にとって、「女性」というジェンダーは聖域である。まさに共和党にお株を奪われた格好だった。しかし、マケインが選んだアラスカ州知事の名前を正確に言える者は、民主党はもとより共和党内にすら多くは存在しなかった。候補者のマケインは、本当はジョセフ・リーバマン上院議員を選びたかったが、マケイン自身も知らないようなペイリンに、陣営の都合でされてしまったのだ。呼吸が合うはずがない。

「奇襲」効果の再考
党大会とメディアの政治学

 しかし、それでも2008年のペイリン流の「奇襲戦」は二つの効果を発揮した。


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