2024年7月16日(火)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年8月16日

 また、リークの問題もある。大統領選挙では、副大統領候補ほど大統領候補の口から発表される以前にメディアに報道されることが許されない秘密もない。2008年のオバマ陣営では、バイデン決定をごく数人の陣営幹部だけで共有した。ロムニー陣営がある程度早期にライアンの名を発表しておかなければ、リベラル系メディアがミスリーディングな形でスクープしてロムニーの発表を台無しにしていたかもしれない。

 「サプライズ」狙いだけでヒスパニック系や女性を選ぶことへの躊躇も、ロムニー陣営内外には見え隠れしていた。ギジも、ワシントンで6月に私と面会したさいには、マルコ・ルビオやスザナ・マルチネスの可能性を既に否定していた。候補者のエスニシティやジェンダーの属性だけで獲得できる票は限定されている。共和党では尚更そうである。共和党支持のマイノリティや女性は「マイノリティや女性なら、誰もが民主党に入れるべき」という、属性内の同調圧力に偽善や抑圧を感じたからこそ、個人の政策や理念ベースで保守主義や共和党を愛好している。そうした共和党で「ヒスパニックだから」「女性だから」と票を乞うのはある種の論理矛盾を引き起こす。

 2008年にペイリンは、オバマに予備選で敗北したヒラリーの支持層の女性票を奪うのではという声もあった。しかし、フェミニズムとしての熱狂的「女性票」はリベラルにしか存在しない。保守的な女性はジェンダー属性単一では投票を決めない。共和党候補を女性にするのは党派的ではない中間層の「インデペンデント」層狙いでは意味があるが、ペイリンは右に振り切れた社会保守で「インデペンデント」層との親和性がなかった。属性の珍しさを狙う策は、民主党を一瞬怯ませ、華やかな候補が好きなメディアを喜ばせても、集票効果は薄いとすれば、ロムニ―陣営の判断は冷静だったと言えよう。

「穏健派ロムニー」との決別宣言

 では、ロムニー・ライアンのキャンペーンはどのようなものになるのであろうか。

 ロムニーにとってマサチューセッツ州知事時代の医療保険改革など一連の経済的に穏健な政策の前歴は、共和党内の信頼獲得には足かせだった。共和党予備選でも苦戦した。2012年選挙では、かなり保守路線に舵を切っているにもかかわらず、未だに「穏健派」とメディアに称されることに、ロムニー陣営周辺も苛立ちを募らせていた。しかし、満を持してのライアン候補である。


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