2024年11月22日(金)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年8月16日

 第1に、共和党大会を盛り上げたことだ。全国党大会は大統領選挙の年の8月末と9月冒頭に、それぞれ4日間、共和党と民主党で開催される。3日前後の間隔をおいて、両党がほぼ連続開催される。2008年の党大会は民主党が8月25日から28日(コロラド州デンバー)、共和党が9月1日から4日(ミネソタ州セントポール)だった。

 「Yes, We Can」のフレーズで親しまれる新星オバマを候補に迎えて最高潮に達していた民主党が先発。共和党は後発だった。どの時期に副大統領候補を発表するかが鍵だった。マケイン陣営が選んだのは、民主党の大会最終日のオバマの指名受諾演説の直後。オバマ熱に水をさし、メディア報道の枠を奪う作戦だった。

 党大会は政党の有力者、支持者の同窓会としてのお祭りである。バッジ、バンパーステッカー、Tシャツなどキャンペーン・グッズを販売するが、正副大統領のコンビをプリントする。「オバマ/バイデン2008」というように、正副のファミリーネームに西暦を合わせたものが、本選のキャンペーンネームになる。

 共和党は「ロムニー/ライアン2012」グッズを着々と作製中だ。2008年の共和党は、副大統領候補決定からわずかな時間しかなく、発表から3日で党大会本番を迎えた。2008年に共和党の大会グッズを受注した業者は前代未聞の「短期仕上げ」を求められたが、なんとか共和党大会には初日からペイリングッズが揃った。突発のハリケーン対応で党大会にブッシュ大統領が出席できないトラブルに加え、大会から閉め出されたとして共和党大会潰しを叫ぶロン・ポールの支援団体の「裏党大会」の開催、リベラル系の団体のイラク反戦デモなどが取り囲む四面楚歌の中、共和党大会を華やかにしたのが、2008年サラ・ペイリンだったことは間違いない。

 第2に、本選にとって死活問題であるメディア報道(「無料広告」という言い方をする)を独占したことだ。ペイリンのキャラクターの強さ、そして銃愛好家であり人工妊娠中絶反対のプロライフの堅固な立場は、マケインに不信感を抱いていた宗教保守勢力も喜ばせた。ニュース番組はペイリン一色に染まり、オバマは影が霞んだ。

 しかし、およそ1カ月の間だけ効果を発揮したものの、9月いっぱいでペイリン・ブームは下火となった。テレビ各局の主要アンカーとの単独インタビュー、バイデンとの副大統領ディベートなどで、政策知識とりわけ外交知識に大いに難ありということが次々と露呈したからだ。

性別やエスニック起源に依存することの
共和党的な論理矛盾

 2008年の経験から「奇襲戦」の効果は限定的であると共和党関係者は学んだ。ロムニー陣営も同様の考えだった。第1に、今回の党大会は共和党が先発である。民主党に先に開催させて、副大統領候補の発表をぶつけて民主党の党大会を邪魔するという作戦はとれない。民主党側は「現職」で、副大統領候補の意外性を競う意味もない。

 第2に「奇襲」的な候補者のメディア独占は1カ月がマックスである問題だ。あれだけキャラクターの立っている女性候補のペイリンですら、1カ月しか話題性がもたなかったのだ。むやみに党大会開催直前まで引っ張るより、党大会数週間前に副大統領候補を明かして、じっくり政策論争の準備の構えを築くほうがいい。ロムニー陣営の選択は賢明だっただろう。


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