2024年4月27日(土)

中東を読み解く

2021年1月7日

ほど遠い完全和解

 ムハンマド皇太子はクシュナー氏とはメッセージアプリ「WhatsApp」を使って深夜でもやり取りする中といわれるほど親密だ。特に、皇太子が2年前、サウジの反体制派ジャーナリスト殺害事件で窮地に陥った時、同氏やトランプ大統領のおかげで国際舞台に復帰できたと恩義を感じており、カタールとの和解を実現することで、間もなく退場する大統領に新たなレガシーとなる外交的成果を贈ったと見られている。

 しかし、一方ではバイデン新政権へのメッセージも含まれていただろう。バイデン氏は選挙期間中から、サウジのイエメンへの軍事介入を批判し、当選すればサウジとの関係を見直すと表明している上、サウジの人権抑圧も問題視している。また同氏はトランプ氏とは異なり、環境汚染には強い懸念を示しており、石油大国であるサウジにとってはその動向は最大の関心事だ。

 このためムハンマド皇太子はバイデン氏との関係を視野に入れ、カタールとの和解を演出することで、サウジが強硬路線一辺倒ではなく、対話も重視していることを示したのではないかと受け止められている。「トランプ、バイデン両氏に“いい顔”をして見せるというしたたかな計算だ」(ベイルート筋)。

 だが、今回の和解は域内の完全な反目解消にはほど遠い。率先して矛を収めたサウジにしても、カタールとの断交を批判したことを理由に逮捕したイスラム学者やジャーナリストら政治犯の釈放問題なども残っているし、UAEやエジプトの不満はさらに強い。

 特に内戦状態のリビアでは、カタールがトリポリの暫定政府を支援しているのに対し、UAEやエジプトは反政府軍事組織「リビア国民軍(LNA)」を援助しており、こうした対立の構図はなんら変わっていないからだ。「今回の合意はガラスの和解にすぎない。砂漠の風紋のように明日には変わる」(同)。ペルシャ湾岸の安定はまだまだ先の話のようである。

  
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