2024年12月14日(土)

Wedge REPORT

2021年1月25日

エース・菅野にとっても追い風

 ただ、チームの背景を鑑みれば、これまでの恩讐を乗り越えて桑田氏を緊急招聘したメリットは計り知れない。原監督も公言している「投手陣全体のレベルアップ」、ひいては「日本一奪回」に大きな期待が真っ先にかかるのは至極当然のことだが、これ以外にもプラスアルファの相乗効果が見込める。桑田氏がコーチングスタッフとして加入すれば、利点として1つ挙げられるのはエース・菅野智之投手にとっても追い風となることだ。

 菅野は今、ネット上を中心に強いバッシングを受けている。今オフ、ポスティングシステムを利用してMLB(メジャーリーグ)への移籍を視野に入れ、複数の球団からオファーを受けたものの条件が折り合わずに移籍を断念。チーム残留を決めると推定年俸8億円で1年契約を締結し、順調にいけば今シーズン中に取得する海外FA権を行使する形で来オフに再びMLB移籍を目指す可能性も示唆している。

 ところが「わざわざポスティングを利用しながら、なぜメジャーへ行かなかったのか」などといった厳しい指摘がネット上でも数多く向けられ、風向きは一気に逆風へ――。条件面でメジャー球団側と巨人の条件を天秤にかけたとの誤解も生じてしまい、急増したアンチファンを中心にすっかり悪者扱いされてしまっている。

 そんな菅野を手助けできる存在となりそうなのが、桑田氏だ。かつて現役時代は巨人で再三に渡ってマウンドだけでなく野球以外のことでも辛苦を味わいながらも不屈の精神力で乗り越え、エースとして一時代を築いた。菅野とは同じドラフト1位指名同士であり、互いに入団時の〝紆余曲折〟があった境遇も思えば酷似している。元メジャーリーガーでもある偉大な先輩・桑田氏は菅野の抱える苦悩をすべて受け止め、適切かつ説得力十分な助言を送ることが可能なはずだ。 

 事実、菅野は桑田氏の入閣について「尊敬できる大投手。早くお会いしていろいろ話をしてみたい」と胸を高ぶらせるようにコメント。桑田氏も菅野に関して「まだまだ伸びしろがあるので、もう少し彼の潜在能力を引き出せれば」と述べ、指導に並々ならぬ意欲を見せている。桑田氏が菅野と今後新たに師弟関係を築き、その言葉通りにシーズン中もエースのさらなるレベルアップと昇華に一役買えば必然的にドラマチックな展開となることは間違いないだろう。菅野の意に反して今起こってしまっている〝ヒール化現象〟の波も、世間の手のひら返しの怖さを知り尽くした桑田氏ならば歯止めをかけることができるはずである。

 時系列で合わせてみると、原監督が桑田氏の招聘に動き始めた年末は渡米直前ながらも菅野のメジャー移籍がちょうど怪しくなり始めた頃だ。甥の行く末を案じつつ指揮官は早々とエース残留に備え、そこから逆に起こり得る懸念材料を今のバッシングも含めて先読み。その全てを好転させる救世主として過去の確執にとらわれることなく、桑田氏に白羽の矢を立てた――。

 邪推し過ぎかもしれないが、実際に去年も福岡ソフトバンクホークスに日本シリーズで2年連続の4連敗を喫してから逆風続きだった巨人は桑田氏復帰が決まった直後から完全に流れを好転させ、次のキャンプの最注目球団へと躍り出ている。2年連続でホークスに辛酸をなめさせられ、原監督は采配の評価が急落してしまったものの世の中の流れを読む嗅覚と行動力に限定すれば「さすが」と言えるかもしれない。

 いずれにせよ、巨人の今季キーパーソンは数々のヒューマンドラマも生み出す桑田氏と言えそうだ。

  
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