2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2021年1月4日

 苦しいシーズンになりそうな予感が漂う。2021年の巨人に対し、今のところ明るい材料を多くは見つけにくい。特にポスティングシステムを申請し、メジャーリーグへの移籍を視野に入れているエース・菅野智之投手が退団となれば厳しい戦いはまず避けられなくなるだろう。

(Pete Van Vleet/gettyimages)

 年明け早々の元日に単身渡米した菅野は代理人のジョエル・ウルフ氏と合流し、MLB球団のメディカルチェックに備えている模様。コロナ禍の中、わざわざ渡米したことを考えれば本人の意思はMLB移籍にほぼ固まったとみられている。米メディアによれば現在までのところ、菅野の獲得に興味を示しているMLB球団はニューヨーク・メッツとトロント・ブルージェイズ、サンフランシスコ・ジャイアンツに絞られているとみられ、他の〝ダークホース〟が急浮上する可能性も含め交渉期限(日本時間8日7時)のぎりぎりまで激しい争奪戦が繰り広げられることになりそうだ。

 もちろん、MLBのストーブリーグは「一寸先は闇」なので何が起こるかわからない。メディカルチェックで何らかの問題が生じる可能性はゼロではないし、条件面で折り合わないことも当然あり得る。現時点で菅野が「MLB移籍確定」とは断言しにくいが、退団濃厚となっている背景を鑑みれば2021年の巨人がエース不在の戦いを強いられる展開はもう覚悟しておかなければいけない。

 菅野の昨季成績は14勝2敗、防御率1・97。今季は日本プロ野球新記録となる「開幕投手13連勝」を記録し、セ・リーグで最多勝と最高勝率の2冠にも輝いた。ここまでの成績を振り返ってみてもプロ8年間のうち、2けた勝利は実に7度と群を抜いている。最優秀防御率の個人タイトルも4度受賞し、防御率3点台となったシーズンは2度しかない。

 菅野は我々が考えている以上に、ジャイアンツの中で絶対的存在だ。長きに渡ってチームを支え続けてきた絶対エースが去るとなると、屋台骨のなくなった先発ローテは当然のように大きく揺らぐ。もちろん精神的支柱として頼りにしていた若手投手も数多く、G投は当面の間「菅野ロス」にあえぐ日々を過ごすことになりそうだ。そして単純計算ながらも菅野の叩き出した昨季の貯金「12」が一気になくなると考えれば、その埋め合わせでチームはかなり苦しいやり繰りを強いられることになる。

 ここで真価が問われるのは、原辰徳監督のマネジメントだ。甥っ子・菅野のMLB挑戦は本音を言えば、おそらく心中複雑であろう。報道陣には菅野の去就について「残ってくれるということがベスト」と未練がましいことも口にしていたが、本人の決断は否が応でも尊重しなければいけない。その指揮官が編成権にも携わる全権監督として今オフ、あらかじめエース不在となることも見込んだ上で巨大補強にゴーサインを出した。

 巨大補強の枠組みの中、投手の新戦力で獲得した筆頭は横浜DeNAベイスターズから国内FA権を行使した井納翔一投手だ。2年2億円(推定)とかなりの厚遇で迎え入れたのは個人的に甚だ疑問だが、それでもチームにとっては経験豊富で使い勝手も良く貴重な存在となるはず。しかし、さすがに井納1人では菅野の代役を全うできない。ベイスターズでのプロ8年間で2ケタ勝利は1度のみ。昨季も苦しい先発ローテを支えたとはいえ6勝7敗、防御率3・94と特筆すべき成績を残したわけでもない。来季で35歳を迎えるベテランは元々器用な側面も持ち合わせているだけに先発、リリーフの両ニラミで起用されていくことになりそうだ。

 井納よりもむしろ期待がかかるのは昨年秋のドラフトで1位指名され、入団した右腕・平内龍太投手(亜大)である。昨年3月に右ひじのクリーニング手術を受けたが、驚異的なペースで実戦復帰を果たし、9月に自己最速となる156㌔をマーク。その同年秋のリーグ戦途中でエースの座をつかむとチームを8季ぶりのVへ導き、MVP、最優秀投手賞、ベストナインの3冠も手にした。

 昨春受けた右ひじのクリーニング手術では〝ネズミ〟を5個除去し、復帰後はスカウト陣から「投球そのものが急激にレベルアップした」と評されていた。ひじにメスを入れることは獲得するプロ球団側からすれば一見するとマイナスにとらえられがちなところもあるが、平内の場合は完全な成功例。しかもこれだけの短期間で〝確変〟を遂げたのだから、いい意味でレアケースと言えるだろう。

 世間の扱いから見ると〝巨人のドラ1〟とはいえ昨年ドラフトの外れ1位であることから、やや地味な感はどうしても否めない。いまひとつ脚光を浴びていないのは正直なところだ。それでも平内は目の肥えたスカウト陣の間で「〝外れ1位候補〟というよりも〝隠れ1位候補〟という呼称が適切」とささやかれるほどに、それなりの人気を集めていた逸材だった。185センチ、90㌔の恵まれた体格から繰り出される多種多様な球種はプロで間違いなくストロングポイント。縦のスライダーに縦のカーブ、落差十分のスプリット、そして威力のあるストレートが主な武器だ。

 巨人の球団幹部は「1年目から先発ローテに入ってもらい、2ケタ勝利も期待したい」と口を揃えながら即戦力として太鼓判を押している。原監督も「智之タイプだと思います。マウンドでの立ち居、ボールも含めいいお手本がいますので、そういう意味ではまさに智之2世と。自信を持ってジャイアンツの門を叩いてもらいたい」と独特の言い回しとともに、これ以上ないコメントで珍しくエースを引き合いに出しながら激賞している。無論、新人に対して過度な期待は禁物だ。しかしながら指揮官や球団幹部の言葉通り、平内が菅野2世としてルーキーイヤーから2ケタ勝利をマークすればもう申し分ないだろう。ここに今季、9勝をマークして大ブレイクを遂げた20歳右腕・戸郷翔征が勝ち星を上積みさせ、さらなるジャンプアップを成し遂げれば、菅野不在でもかなりラクになる。


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