2024年11月21日(木)

都会に根を張る一店舗主義

2012年9月28日

 仕事を離れ、少し距離を置いて考え直した時、今度は、もっと積極的な転職の動機が見えてきた。「自分も大量消費に組してきたけれど、この時代、経済成長を求めても、それは敵わず、社会には閉塞感がたれ込めている。ならば、僕だけが辛かったのではなく、それは経済成長のシステムそのものに問題があるのではないか」。

 今年、出版された『ホーキせよ』(なまけもの出版)に、文化人類学者、辻信一氏との対談が掲載されているが、その中で高坂さんが、こう言っている。

 「アップを目指して、みんなアップアップしている(笑)。見ていてもカッコ悪いですよね。会社で、明日こそもっと売上アップ、目標アップって、みんなそんなの無理だとわかっているのに…」

 かくして高坂さんは、上昇志向の呪縛から解放され、降りていく生き方を見出す。ぴったりくる言葉を探していたそんな時、ある客が教えてくれたのが、社会学者ジュリエット・B・ショアの“減速生活者”ダウンシスターズという言葉だった。  

楽しくなければ続かない

 店を始めて、暮らしはがらりと変わった。

若い人に人気のスローなバー

 「サラリーマン時の僕の年収が約600万円で、店の開業時は約300万円でした。東京だから、家賃は高くて7万円しますけど、冷蔵庫を置かないなどエコな暮らしを心がければ、だいたい月20万円もあれば1人なら暮らせる。すると月の売上げは約60万円でいい。一日約20000~25000円でやっていける。そう考えると、一人約4000円としても一日5~6人のお客さんがいればいい。14席で満席の店に5~6人の客と聞けば、赤字と言われそうですが、それでやっていける。こういう小さな商売なら、現金収入は少ないけど、まず起業しやすいし、何より楽しい。お客さんと話もできる。休みもとれるし、何より持続可能なんです」

 今ではその休みが、週に3日もある。家族と過ごす時間は、そりゃあるだろう。そこで信頼関係のある客には、料理教室やイベントに、店を安く貸してもいる。

 もっと大きく、を目指し続ければ、設備投資で首がしまり、いずれ商品は劣化する。

 「大きくならないことでしか、本物は作れない」そう確信した高坂さんは、商売が大きくなり過ぎない努力も怠らない。たとえば、チラシも名刺も作らない。メニューはいたって不親切。看板も出さない。今年は、週休2日から3日に変えた。

 「だって、楽しくなければ続きませんから」


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