「おにぎりの米? それは自分の米です」
“たまつき”には、380年も続く千葉県の蔵元『寺田本家』の希少な酒がそろう。独特の甘みが女性にも人気の発芽玄米酒「むすび」や無農薬米の「天然酒」など。新潟麦酒の「麻物語」、有機のフランス・ワインや焼酎、梅みりん酒もある。
けれど疲れた体に嬉しいのが、知る人ぞ知る池袋の名店「大桃豆腐」の商品を使った豆腐料理。大桃伸夫さんは、国産の地大豆にこだわり、それぞれの豆にあった丁寧な豆腐作りで知られるこだわりの人。江戸から続く老舗の女将や詩人のアーサー・ビナードも大ファンで、震災後は、豆腐を離乳食にするお客のためにと豆選びにも余念がない。その飛びきりうまくて安心な素材を使った「おからサラダ」「納豆もち」「豆乳と山芋のグラタン」といった料理にありつける。「卯の花巾着焼き」や「おからソーセージ」といったオリジナル料理も面白い。
高坂さんは、開業する前、『トージバ』という農村と都市の若者をつなぐNPOを通じて、大桃さんと知り合った。
「気がつくと、メニューは、どんどん大桃さん頼りに変えてきちゃったね。だって、楽なんだもん」と呑気なことを言っているが、とはいえ、「ピーマンとえのきの醤油焼き」などシンプルな野菜料理を頼んでも、無農薬や減農薬の野菜も、醤油もいいし、食感の残し方といい、加減もなかなかいい。
ただ、本当に不覚だった。
「お米は、何かこだわりの米なんですか?」と訊ねると、驚きの返事が帰ってきた。
「あっ、それは自分の米ですよ」
何と週休3日のもう一つの理由は、米と大豆の自給だったのだ。高坂さんは、4年前から千葉県の田んぼに通っていた。だから、「おにぎり」の米も、きゅうりの上の味噌も手作り。
きっかけは、大好きなアーティスト、真砂秀朗さんとの出会いだった。長く葉山で米作りをしている真砂さんに「田んぼって難しいですよね」と訊ねたところ、「いいや、年に20日で出来るよ」と即答。
さっそく、お客さんの紹介で、千葉県の町に田んぼを借りた。品種はコシヒカリで、もちろん無農薬、機械も使わず、手で田植えし、収穫も手刈りだ。
しかし、自分が自給するだけでおさまらないのが、高坂さんの逞しいところ。