選挙直前
牢獄での拷問映像で追い込まれた現政権
だが、選挙直前の9月18日からの一連の動きで、政権は大きな打撃を受けることとなった。グルジアの牢獄の評判は予てより悪かったが、元看守が極秘に撮影した、トビリシの牢獄での囚人に対するひどい拷問、箒の柄による性的虐待などを録画したビデオが反対派テレビであるTV9やTVマエストロで放映されたのである。
元看守は、イヴァニシュヴィリ派の政治家に依頼を受けたとされており、すでにジュネーブに逃げ、政治亡命を申請している。このビデオが放映されたことで、激しい抗議行動が起こり、内相と刑務所の所管大臣も辞任に追い込まれた。このような中、イヴァニシュヴィリは抗議行動をする市民に対し「抗議の意思は、10月1日の選挙で投票によって示そう」と呼び掛けたのである。
他方、政権側は、一連の事件がイヴァニシュヴィリに仕組まれたものだと主張した。ビデオはやらせで、それをイヴァニシュヴィリが買収したというのだ。そして、その証拠として、9月24日に、内務省はひそかに録画されビデオを公開した。そのビデオには、一人の男が警察官に、囚人を虐待しているところを撮影させれば、2万5000ユーロ(約250万円)を渡すと言い、また、もし、虐待がなければ、活動家がその役を買って出ると言っている場面が写っており、さらに他のビデオには、同じ人物が他の公務員に賄賂を申し出ている場面も録画されていた。このように、本件は選挙を目前にし、泥仕合の様相を呈したが、いずれにせよ、この事件が政権にとって、最後の大打撃となったことは間違いない。
選挙の意味
このように、厳しい選挙戦が繰り広げられ、当初はサアカシュヴィリのUNMが優勢だったが、終盤は完全にGDの勢力拡大が明らかな情勢となっていた。
今回の選挙は直接、政権交代につながるとみなされていた。何故なら、来年10月のサアカシュヴィリ大統領任期満了後に発効する新憲法で、大半の大統領権限が首相と議会に移譲されるからだ。この憲法改正は、グルジアでは大統領の三選は禁止されており、大統領を2期務めたサアカシュヴィリはもう大統領に出馬できないことから、自身が首相になり、最高権力を維持するためにサアカシュヴィリが準備したものである。この動きを、人々は「サアカシュヴィリの政治の見本はロシアのプーチン」だと揶揄した。
だが、このことは、もしUNMが議会選挙で負ければ、サアカシュヴィリは首相になれず、権力を維持できない、つまり政権交代が起こることを意味する。この議会選挙は、今後のグルジア政治の大きな分岐点となる鍵を握るとして大きな注目を浴びていたのである。
「バラ革命」のあとの「イバラの道」容易でない今後
それでは、イヴァニシュヴィリ新政権はグルジアをどのように導いていくのだろうか。グルジアの政治の未来は、花弁がおちた「バラ革命」のあとの「イバラの道」であり、イヴァニシュヴィリはかなり難しいかじ取りを余儀なくされるだろう。