まず内政である。イヴァニシュヴィリは政治経験が全くないが、彼がいきなり首相になり、難しい状況を打開できるのかどうか危惧する声は少なくない。特に、サアカシュヴィリ大統領の任期中の与野党の協力体制を構築することは容易ではないだろう。氏が大統領であったことで漁夫の利を得ていたUNM系の議員が、協力的でなくなる可能性も危惧されている。
加えて、新「与党」内の調整も容易でないといわれている。何故なら、GDは6政党の寄せ集めであり、選挙に勝利するという共通の目標が達成された今、彼らをつなぐものはないとも言われている。単に、イヴァニシュヴィリの「資金」でつなぎとめられていたという冷ややかな分析も多くなされている。
また、イヴァニシュヴィリは国民の生活の安定と経済の向上も掲げているが、公式には16%ながら、実質的には70%といわれる失業状態を改善することは容易ではない。だが、国民の忍耐力が切れる前に結果を出さねばならないだろう。
さらに、グルジアが抱える最大の問題、すなわちアブハジア、南オセチアの奪還は極めて難しいと思われる。特に、最近では南オセチアとグルジアの間で相互に武装が進んでいるという報道も出たほどだ(真偽は不明)。
次に外交だ。イヴァニシュヴィリの外交方針は、EUやNATOへの加盟を目指すという親欧米路線を第一にする一方、ロシアとの関係もより穏便に進めるというものである。だが、ロシアが今回の政治結果を歓迎しており、すでに新政権との交渉の用意も表明しているだけでなく、イヴァニシュヴィリ彼自身や彼の多くの政治パートナーたちが、ロシアと太いパイプを持っていることもあり、欧米諸国やグルジア与党支持者の中には、グルジアがむしろロシアとの関係に傾斜し、欧米との関係を希薄にしていくのではないかと危惧するものも多い。
しかし、サアカシュヴィリの極端な反ロシア政策により、グルジアは多くの損失を被っており、特に、2008年にはグルジア紛争、そしてロシアによるアブハジア、南オセチアの国家承認などが続いたことから、グルジア市民の中には、ロシアとのより穏便な関係のほうを望む者も多いといわれており、またグルジアにとって現在途絶えているロシアとの経済関係の再構築を求める声も多い。ロシアへの出稼ぎやロシアからの投資を促進させたいものは少なくない。そのため、イヴァニシヴィリは絶妙なバランス外交を取っていく必要があるだろう。
このようにグルジアの政治はバラ色ではなく、まさに「イバラ」の道であり、イヴァニシュヴィリの手腕が問われるところであるが、それでも国際的に評価される民主的な選挙を成功させ、平和的に政権移譲がなされそうだということは、グルジアの民主化にとって大きな一歩となったと言える。旧ソ連諸国の民主化のリーディングヒッターとして、着実な政治運営を進めていってほしい。
PSCE/ODIHR, European Parliament. NATO Parliamentary Assemblyの合同記者会見の際に配布された暫定報告書のURLは以下の通りです:
(1)International Election Observation
http://www.osce.org/odihr/elections/94593
(2)Georgian takes important step in consolidating conduct of democratic elections, but some key issues remain, election observers say
http://www.osce.org/odihr/elections/94597
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