2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年9月3日

 モスクワの政治軍事分析研究所(非政府系)に籍を置き、現在ワシントンのCSISで客員フェローをしているマルケドノフが、National Interest誌のウェブサイト5月29日付の「プーチンのユーラシアの野望」と題する論説において、プーチン外交の当面の重点は旧ソ連諸国とその周辺(ユーラシア)にあるが、同地域に対して覇権主義的・拡張主義的な野心は持っておらず、プーチンが2015年までの結成をもくろむ「ユーラシア経済同盟」も、政治面での統合より経済面での連携強化を目指しているものだ、と分析しています。

 すなわち、「プーチン新政権の外交政策は奈辺にあるか」が諸方で議論されているが、プーチンは首相時代にも外交に実質的に関わってきたのだから、基本路線に大きな変化はありえない。

 プーチンは5月7日大統領就任直後、新政権の方向を示すための「布告」をいくつか発出した。そのうちの一つ「ロシア連邦の外交実施のための諸方策」を見ると、重点方向としてユーラシアが最初にあがり、米国、EU、アジア太平洋地域諸国が次に言及されている。

 ロシアがこうして「ユーラシア」(実際には旧ソ連地域とその周辺を意味している)に執着しているのは、ロシアのエリートがソ連時代への郷愁を捨てきれないからでも、帝国主義的野心のせいでもなく、ロシアにとって旧ソ連諸国との問題は現在の現実的な必要性に関わるものであるからだ。例えば、ユーラシアにおいては、飛び地ナゴルノ・カラバフの問題、そしてモルドヴァ共和国内部にロシア人が集住する沿ドニエストル地域の地位の問題など、解決においてロシアが大きな役割を果たすべき問題が多い。

 ロシアは旧ソ連地域で重要な経済的役割を果たし続けている。グルジアと戦争をした後でさえ、ロシアはグルジアにおける第6位の直接投資供与国で、特にエネルギー分野での投資は大きい。また2014年、アメリカ軍、NATO軍がアフガニスタンから撤退すると、隣接するタジキスタンとウズベキスタンは安全保障面でもロシアへの依存度を高めるだろう。

 旧ソ連地域は米ロ関係において、誤解を生みがちだ。ロシアがこの地域で何かをやろうとすると、西側はこれをロシアの拡張主義、覇権主義ととるし、ロシアはロシアで第三者が旧ソ連地域で何かをすると自分の利権が侵されたように認識する。

 しかし今回の布告に見えるのは、旧ソ連地域に対するプーチンのかなり柔軟な姿勢だ。南オセチアとアブハジアの独立維持については譲歩する姿勢を見せないが、モルドヴァやナゴルノ・カラバフの問題については、西側をも入れての話し合いによる解決にコミットしているのだ。

 そして、プーチンは旧ソ連を復活させようとするよりも、経済に重点を置いたユーラシア経済同盟に重点を置いている。つまりロシアの外交路線は攻撃的ではなく防御的なものだ。


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