問題は、この路線を実現するための具体的な手段は何なのかが明らかにされていないこと、そしてロシアの外交を正当化するようなイデオロギーが十分示されていないことだろう。NATOとかEUなどは、明確なイデオロギーを持っている。
旧ソ連地域では、ロシアは政治的・経済的なリーダーシップをまだ取ることができるが、いつまでもそうである保証はない、と論じています。
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プーチン大統領は、就任早々活発な外交活動を見せました。アブハジア、南オセチア両国(2008年のロシア・グルジア戦争の後、グルジアから「独立」したことを標榜)の大統領と会談したのを皮切りに、旧ソ連諸国CISの首脳会議やNATOのロシア版とも言えるCSTOの首脳会議をモスクワで開き、最初の外遊先としてはベラルーシを選びました。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ロシアとEUの間で「二股外交」を見せていましたが、石油・天然ガスの供給をロシアに完全依存しているために、最近ではロシアに恭順的な姿勢を示しています。プーチンにとっては、「ユーラシアの統合」実現への第一歩を世界に印象付けるのに至便な訪問先と言えるでしょう。
さらに、プーチンは、その足でドイツ、フランスに赴き、6月上旬には、上海協力機構首脳会議に出席するため訪中しています。大統領選に入っている米国は後回しにして、欧州、中国との関係を固め、9月早々にはウラジオストクで、欠席のオバマ大統領を尻目に、中国と語らってAPEC首脳会議を仕切ろうということなのでしょう。
このような「プーチン外交」には、当面は、ポイントを挙げるための条件が揃っています。
まず、米国が大統領選挙で、本格的な外交は休止状態になります。その中でロシアは現在、ベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァ、アルメニア、中央アジア等「ユーラシア」の諸国に対して、種々の状況から有利な立場にあります。ただし、石油・天然ガス市況が崩れると、ロシアの力も直ちに減殺される可能性はあります。
次に、アフガニスタンからの米軍・NATO軍撤退が始まる中、ロシアは兵器・資材の搬出路として重要な意味を持ちます。