国は中小企業の未来へのビジョンを
1575年創業の老舗餅店「二軒茶屋餅角屋本店」(三重県伊勢市)21代目の鈴木成宗社長は1997年にクラフトビール事業に参入したが、巨額の負債を抱えた。その後、開発したビールが国際大会で金賞を受賞するなどして盛り返したが、「新事業への挑戦は、商品の品質向上と販売戦略を練らなければならず、知らないことをゼロから学ばなければならない」と補助金だけでは結実しない現実を指摘する。
事業運営がうまくいかなければ、補助金が企業の命を縮めることになってしまう恐れもある。事業転換へ覚悟を持った企業の計画を採択しなければ、巨額の税金が水泡に帰すだけでなく、日本経済へのダメージも大きい。
厳格な審査には、国として中小企業をどうしていくのかという長期的な視点が必要となる。中小企業政策に詳しい一橋大学大学院経営管理研究科の宮川大介准教授は「個々の中小企業のパフォーマンスに加えて地域毎の企業数や業種分布などを踏まえたスコアリングを行うことで、政策目的に合致する可能性の高い企業を採択し、採択後も継続的にモニタリングすることが必要。大規模なバラマキとなることを避けながら政策を運営する必要があり、中小企業庁の腕が試される」と指摘する。中小企業とともに日本経済の転換を求める補助金である以上、広い視野での運営も求められる。
日本は今、新型コロナの感染拡大が続き、経済活動再開のめどが見通せない。政府も景気浮揚への出口戦略を描けない中、中小企業再編へ巨額の税金がつぎ込まれようとしている。中小企業庁経営支援部担当者は「社会的需要と中小企業の意識から、予算額に値する申請があると見込んでいる。予算を使い切るための審査・採択は行わない」としているが、〝無駄な補助金〟とさせないために、6月の第一次採択結果は注視しなければならない。
Wedge6月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■押し寄せる中国の脅威 危機は海からやってくる
Introduction 「アジアの地中海」が中国の海洋進出を読み解くカギ
Part 1 台湾は日米と共に民主主義の礎を築く
Part 2 海警法施行は通過点に過ぎない 中国の真の狙いを見抜け
Column 「北斗」利用で脅威増す海上民兵
Part 3 台湾統一 中国は本気 だから日本よ、目を覚ませ!
Part 4 〖座談会〗 最も危険な台湾と尖閣 準備なき危機管理では戦えない
Part 5 インド太平洋重視の欧州 日本は受け身やめ積極関与を
Part 6 南シナ海で対立するフィリピン 対中・対米観は複雑
Part 7 中国の狙うマラッカ海峡進出 その野心に対抗する術を持て
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。