街角や店頭で何気なく張り出されているポスターは多いが、じっくりと見たことがあるだろうか。化粧品メーカーや映画用のポスターは、商品や作品をイメージさせる重要な宣伝ツール。そこには可能な限り実物を再現させる印刷技術が隠されている。ミクロの網点から濃淡を引き出し紙に印刷する工程は、経験とノウハウ、センスを備えた限られた職人にしかできない。その技を伝えていく人材育成は、研修で得る知識とは異なる。その過程をポスター印刷の人材育成術から探ってみる。
【会社データ】
設 立 :1972年7月
資本金 :1,000万円
所在地 :東京都板橋区舟渡3-8-3
代表者 :代表取締役 高橋克俊社長
社員数 :76人
事業内容:ポスター、パンフレット、カタログなどの制作と印刷
URL: http://www.poster-prt.com
100%顧客ニーズに応える実力
1枚のポスターにカメラメーカーの交換レンズが並んで写し出されている。レンズシステムのバリエーションをシンプルな配列でアピールしているが、そこに周囲を圧倒する大きな存在感があった。この迫力は、通常の印刷物で表現できる範囲を超えている。決め手は「レンズを際立たせる黒の表現力です。微妙な色の出し方は永年の勘ですので、口頭で説明することはできません」と技術担当の小松義男常務はいう。化粧品メーカーのポスターでは女優の肌の色を、アパレルメーカーは服装の色合いなど、それぞれの顧客ニーズをくみ取り、100%満足させる仕上がりにする。そのための微妙な駆け引きはオフセット印刷機との格闘から生まれる。
数年前に米国の大物監督がSF映画の宣伝で来日記者会見を開いたときのことだ。会見場に張り巡らされたポスターを見て、監督が唸ったという。世界中を飛び回ってきただけに、各国で印刷された同じ絵のポスターを見てきている。それだけに日本で印刷された迫力あるポスターに関心を示した。もちろん手掛けたのはポスター印刷だ。後日、配給元の映画会社経由で高橋俊男会長(当時社長)に監督の声が届いた。「絵に対するプロともいえる第3者が、客観的に評価してくれたことは嬉しい。当社の技術力が認められたことは全社員の誇りですし、モチベーションが高まります」という。