現在、ポスターの発注先は、自動車、化粧品、アパレル、飲料などの高級品ばかり。大手広告代理店のD社、H社からは直接指定されるほど。印刷業界のガリバーであるT社、D社の双方ともに取引がある。これは業界でも珍しいことだ。「日本一の技術力だと自負しています」と小松常務は胸を張る。
文字にできない体で培った技術
ポスター印刷の高い技術力は、小松常務と小川敏雄顧問らが築き上げてきた。しかし、企業として存続を続けていくには、もちろん技術の伝承が不可欠になる。印刷機のコンピューター化が進み、人の目ではなく機械が色を峻別して適正な色合いを出してくれる。大手を含め多くの印刷は、機械化で大量によりよい印刷を可能にした。この段階ならコンピューター操作などを研修で習得することができる。そのための研修プログラムを作成して技術教育をしていけばよい。
しかし、ポスター印刷に求められる印刷は、微妙な色を再現することで見る人を圧倒する技術だ。画一的で決められたことしかこなせないコンピューターは、人の感性にまで到達していない。「私達が体で培ってきたことを文字に書き写すことは至難の業です。つまり教科書を作れません。また、短時間の研修でも伝えきれません。基本は一緒に仕事をしながら伝えること。OJT以外に方法はない」と小川顧問は技術の伝承法をいう。まさに職人の世界でしか出てこない言葉だ。
小松常務は「昔は先輩の技術を“盗め”と言われていました。その精神は大事ですが時代遅れ。一人一人の作業をみながらアドバイスを繰り返し、技術を習得してもらう取り組みを続けてきました。社員のやる気を引き出し、時には叱責することもありますが、こうして一人前に育て上げる。特別なことではないでしょう」という。言い換えれば、毎日が実習研修のようなもの。技術を習得したいという社員の情熱がなければ、日々のアドバイスは無駄になる。
社員の採用は、社会経験を得てきた人に限定している。以前は新卒者採用を中心にしていたが、下積みから始まる作業についてこられないからだそうだ。「社会の厳しさを味わった人は伸びます。とくに当社の技術の究極は体で覚えること。そこへ辿り着くまでの辛抱ができないと続かない。すべてが多様化した昨今では“丁稚奉公”とまでは言わないものの耐える力がないと。確率的に経験者採用になるわけです」と高橋会長は採用面での難しさを語る。
こうして入社した新人は、印刷機に紙を給紙する仕事から始める。静電気を帯びやすい紙をほぐし、キチンとセットする作業は地味だが、印刷のスタート部分。これを経て、機械のコンピューター制御を学び、色の出し方など徐々に高度化していく。