米国の100年分のコンクリを
2年以下で消費する中国
アジア、中東などの発展途上地域では、建設ラッシュに沸いている。それを反映して、砂の市場規模は世界で約700億㌦にも上る。ただ、砂の採掘量や消費量や貿易量については、統計がない国が多く実態はつかめない。この市場規模は21年の半導体製造装置の世界販売額に匹敵する。
この背景にあるのは、世界的な都市の膨張がある。国連世界人口白書によると、世界人口は1900年の16億5000人から2018年には76億3100万人と4.6倍になった。この間に都市人口は、2億2000万人から43億人に膨れ上がった。
総人口のうち都市部に住む人口の割合を「都市化率」という。国連の「世界都市人口予測」によると、50年当時、世界の都市化率は30%にすぎなかったのが、18年には55%になり、50年には68%にまで増えると予測される。ちなみに、日本の都市化率は94%だ。
歴史上、例のない建設ラッシュのつづく中国は、年間25億㌧近いコンクリートを消費する。アメリカが20世紀の100年間に使ったコンクリートの総量は45億㌧だから、中国の2年分にもおよばない。
19年暮れには中国の武漢市からはじまった新型コロナウイルスの流行が、全世界を巻き込んで過去100年で最悪のパンデミックになった。これも、都市の過密を抜きには考えられない。飛沫感染するウイルスにとって、人口の集中という絶好の環境をつくってしまった。
はびこる砂の違法取引から
目を背けるな
砂の不足から世界各国で砂の違法取引がはびこっている。砂を違法に採掘・販売する「砂マフィア」と呼ばれ、有力者、役人、警察、軍部などが犯罪組織と結託して、違法な砂の採掘や取引を牛耳っている。こうしたヤミ組織が、中国、インド、インドネシアなどで暗躍し、国連の調査では違法な砂採掘は約70カ国で捜査の対象になっているという。
反対する活動家やジャーナリストの殺害が多発している。過去10年間に、インド、インドネシアなどで砂の保護を訴えていたNGOの活動家、地元住民、政府関係者など数百人が殺害された。
川砂は最高品質の骨材だが、その採掘はいとも簡単だ。以前は河岸などでの露天掘りが主だったが、資源の枯渇とともに川底や海底に採掘場所が移ってきた。船に吸引ポンプを取り付けて川底にパイプを伸ばして吸い上げるか、浅い場所であれば、パワーショベルなどですくい取って船やトラックで運ぶ。
こうした砂の略奪で、海岸や河岸が侵食されて集落が押し流され、島々が水没した。また、アジア各地の漁村では、漁場を奪われた困窮した漁民が抗議行動を起こしている。各地で、美しいビーチが姿を消し、水辺の生態系が破壊され、生物は絶滅の危機に瀕している。
英語のスラングで「砂に頭を突っ込む」(put the head in the sand)とは、「見てみない振りをする」という意味に使われる。そうしていられない時代がはじまっている。
■資源ウォーズの真実 砂、土、水を飲み込む世界
砂
part I-1 〝サンドウォーズ〟勃発! 「砂」の枯渇が招く世界の危機
2 ハイテク機器からシェールまで 現代文明支える「砂」の正体
3 砂浜、コンクリート…… 日本の知られざる「砂」事情とは?
土
part II-1 レアアースショックから10年 調達多様化進める日米
2 中国のレアアース戦略と「デジタル・リヴァイアサン」
3 〝スーパーサイクル〟再来 危機に必要な真実を見極める眼力
水
part III-1 「枯渇」叫ばれる水 資源の特性踏まえた戦略を
2 重み増す「水リスク」 日本も国際ルール作りに関与を
3 メコン河での〝水争奪〟 日本流開発でガバナンス強化を
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