中国もロシアと同じ法解釈
今回の黒海事案から、ロシアが中国と同様の海洋法解釈をするようになっていることがわかる。そして、同様の事案はアジア海域でも起こりうる。中国は外国艦船の無害通航には事前の許可が必要と国内法で定めており、航行自由作戦を行う米海軍に強く反発してきた。2021年2月1日に施行された中国海警法第25条は、船舶の通行を制限するために海上臨時警戒区を設定できるとしているが、これはロシアがクリミア周辺で無害通航の停止を発表したのと同じく、航行の自由を脅かすものである。
また、同第17条は、黒海でロシアの警備艇が「ディフェンダー」に対して取ったような、無害でない通航を行っているとみなす外国艦船に対する強制的な措置を規定している。西沙・南沙諸島の帰属があいまいで、中台間の緊張も高まっているため、中国が南シナ海や台湾海峡で外国軍艦に対してさらなる強硬措置を取る可能性も否定できない。
ロシアは従来、海洋法の解釈については米国に近い立場を取っていた。西側諸国が中ロなど権威主義国家との対立を深める中、海洋の解釈に関してロシアが中国に近づいていくことは、国際社会にとって大きな懸念となる。「ディフェンダー」は英空母「クイーン・エリザベス」打撃群に属しており、今後南シナ海を経由して北東アジアを訪問する。その際、今度は中国が英海軍の航行を妨害しようとすることは十分予想される。黒海であれ、南シナ海であれ、海洋のルールは普遍的なものでなければならない。欧州諸国との連携を深める日本も、外交的手段や航行自由作戦によって、普遍的な海洋のルールが維持されるよう、さらなる努力を続けなければならない。
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