2022年12月10日(土)

WEDGE REPORT

2021年7月8日

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有料電子版は広告収入と部数減の穴を埋められず

 アップル・デイリーは口座(メインバンクはHSBC、星展銀行(香港)など)を凍結されたことなどで廃刊に追い込まれた。会社を経営している人ならわかるだろうが、口座を凍結されたことは、自由に資金を動かせず、事実上、会社の死を意味する。

 同紙の財政状況を見てみよう。2020‐21年度の中間決算を見ると、発行部数は1日平均9万1288部から8万6189部と部数を減らした。電子版は、登録者は380万人でうち有料会員は63万人だ。売り上げは前期の5億5629万香港ドルから5億6946万香港ドルとわずかに増収。利益は同3億1330万香港ドルの赤字から1億4629万香港ドルの赤字と赤字幅は大幅に減少した。同紙が力を入れたネットの閲覧収入は2億2049万香港ドルで売上の約39%と収益の柱となった。

 広告収入を見てみよう。約10年前の2011-12年度の中間決算では8億2511万香港ドルだ。中国との関係を憂慮し出稿しない企業が多いがそれでもこの数字を稼ぎだした。20-21年度は6619万香港ドルまで激減しているので、有料会員は、増収と赤字幅を減らすことに一定程度貢献したが、両方の減少分をカバーし、黒字化を達成するレベルまでには至らなかった。

香港ならではのメディア事情

 香港ならではのメディア事情も少し説明したい。記者会見や取材現場では中華系の香港人の記者は30歳以下がほとんどで、中堅クラスの記者に会うことはめずらしい(SCMPは英字紙でイギリス人など外国人記者も多いせいか中堅、ベテラン記者はいる)。テレビ局も同じで、ニュース番組をみても20代が多い。

 これは一定の年齢に達するとマスコミから離れて別な業界でキャリアアップを求める人が多いことがある。もちろん若くても能力があれば問題はないが、経験が浅いというのは事実で、メディア業界としての成熟度がなかなか上がらないことを意味する。

 長年、ニュースアンカーを務めてきた張さんは「基本的に給料は低いというのが理由の1つです。私が約30年前に新卒で働いた初任給と今を比較すると20~30%しか上がっていません」と言う。

 不動産などの政策を行う差餉物業估價署が発表した住宅価格のデータを見ると、香港島の40~69.9平方メートルの家の1平方メートル当たり平均価格は、1991年は2万8755香港ドルだ。最新の2021年5月は18万5913香港ドルと6.5倍にもなっている。香港の住宅は高額で有名なので一例として提示したが、ほかの物価の上昇率は住宅ほどではないにしても、それなりに上がっているのは想像がつく。生活していくのも大変で、住宅を買うというのはほぼ不可能だ。

 なぜ低いのか?「マスコミのオーナーなどはジャーナリズムとして報道するというより、ビジネスという投資なのです。若い人が入社してきて、辞めたら、また別な人を安く雇えばいいというスタンスです。こんな感じですからマスコミに志望者は減っています」とある種の悪循環に陥っている。層の厚みがないというのは香港メディアのウィークポイントだ。瀕死状態の言論の自由が蘇生するには、ここをどうするのかも重要になる。

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