ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョージ・ウィルが7月23日付け同紙論説‘She Leads Estonia’s democracy while keeping an eye on “the bully next door”’で、小国ながら戦略的に重要な位置を占めるエストニアのカラス首相を例に挙げ、欧州における本格的な女性政治指導者の台頭を指摘している。
ウィルは、カラス首相の生い立ちなどを解説する中で、欧州において女性の本格的な政治指導者の台頭が大きな流れになっていることを、民主主義、リベラリズム、市場経済などと間接的に関係付ける形で指摘している。カラスはサッチャー元首相が政策を考慮する際に「市場はどう考えるのか」と問うていたことに印象を受けている由である。ウィルは、民主主義、リベラリズム、市場経済など成熟は女性指導者の登場を促すと示唆しているようである。
それにしても最近の欧州における女性指導者の活躍ぶりには目を見張るものがある。フィンランドのサンナ・マリン首相(35歳)、デンマークのメッテ・フレデリクソン首相(43歳)、リトアニアのイングリダ・シモニーテ首相(46歳)、アイスランドのカトリン・ヤコブスドティル首相(45歳)、ノルウェイのエルナ・ソルベルグ首相(60歳)、エストニアのケルスティ・カリユライド大統領(51歳)、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長(62歳)、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(67歳)、スコットランド自治政府の二コラ・スタージョン(51歳)といった、錚々たる顔ぶれである。
米国では女性大統領は未だに選出されておらず、副大統領もカマラ副大統領が史上初めてであり、女性政治指導者については欧州が国際社会をリードする流れが継続している。同時に、欧州における女性政治指導者は40代から50代で就任しており、世代的にも若いことが特徴である。当然ながら、閣僚でも数多くの女性政治家が活躍しており、政治指導者の予備軍は多数存在している。
言うまでもなく、女性の社会進出は国際社会における一国の開放度を測る指標の一つになっている。バイデン政権では閣僚及び閣僚級として指名された24人のうち、実に11人が女性である。女性の社会進出は日本の評価が国際的に極めて芳しくない分野である。女性の社会進出の国際比較では世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」が定番だが、日本は今年3月に発表された2021年度版でもG7国では最低に留まり、156カ国中120位に低迷し、アジアにおいても韓国、中国、東南アジア諸国連合諸国よりも低い結果だった。
女性の政治進出では行政府の長が存在しないこと、国会議員に占める割合が9.9%であること、大臣に占める割合が10%であることが指摘されている。
安倍前政権は国際社会における指標に照らした日本の評価への感度が高く、「女性が輝く社会」を掲げたことがG7国から好感された。ただし、女性を「日本最大の潜在力」と捉えたことから女性のエンパワーメントよりも経済成長の施策の一環と理解されたこと、女性の就業率は過去最高に達する一方でパートタイムか契約労働者が多かったこと、3割に設定した指導的地位を占める女性の目標が未達になったことなどから、当初好感した人々の関心は次第に薄れた。
しかし、「女性が輝く社会」というのは、発想として優れたものであるので、日本は女性の社会進出に継続的に取り組み、国際社会に発信することが重要だ。なお、政官民を問わず指導的立場の人物がジェンダー・ギャップに関する感度が低い発言をすることは、日本の国際的なクレディビリティを毀損することを常に意識する必要がある。
なお、女性の活躍の面では日本は大きく見劣りがするが、それをもって日本を不自由な社会であると決めつけるのはやや行き過ぎであろう。ウィル論説も引用しているケイトー研究所による76の指標を用いたフリーダム・ランキングでは、日本は162カ国中11位でG7では英国と米国(共に17位)、イタリア(31位)、フランス(33位)より上位である。
また、同じくウィルが指摘しているフリーダム・ハウスの指標では、日本は100点満点でエストニアを上回る96点を得ている。日本が全体としては自由で開放されていることを継続的に訴求することも、日本の国際社会での評価や影響力の視点から効果的である。