2024年4月26日(金)

新しい原点回帰

2021年11月14日

「学べば学ぶほど、力のある思想だと思います。はじめは説教臭いなとも思ったのですが、『報徳訓』には連綿と循環の大切さと共に、富貴が説かれています。格差云々が言われますので最近は、金持ちになって、しかも心が貴くなる思想だと言っています」と9代目の社長を務める鷲山恭彦・元東京学芸大学学長は笑う。8代目の社長だった榛村純一・元掛川市長に口説かれて、2018年に社長に就任した。

鷲山社長と理事を務める皆さん

 鷲山社長が言う『報徳訓』は、尊徳の教えを凝縮した108文字からなる訓辞で、大日本報徳社の例会では、冒頭、壁に掲げられた『報徳訓』を唱和することから始める。そこにはこんな一節があるのだ。

「父母の富貴は祖先の勤功に在り 吾身の富貴は父母の積善に在り 子孫の富貴は自己の勤労に在り」

 決して、せっせと働いて倹約せよというケチケチ思想ではない、というわけだ。また、道徳ばかりを重視して、カネ儲けを排除しているわけでもない。

渋沢栄一にも影響を与えた
「一円融合」

 それを象徴的に示しているのが、大日本報徳社にある正門だ。1909年(明治42年)に建てられた花崗岩の2本の門柱には、向かって右に「道徳門」と書かれ、左に「経済門」と刻まれている。2つの門柱は円弧を描く金属棒で結ばれ、道徳と経済が「一円融合」であるという尊徳の考えを示している、という。「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は犯罪である」という言葉でも知られている。

1909年に建てられた花崗岩の2本の門柱には、「道徳門」「経済門」と刻まれている

 二宮金次郎像も、本を読みながら薪を運ぶ姿から「勤勉さ」だけを象徴しているように思われがちだ。だが、実際には手にしている書物は四書五経の最初に学ぶべき書とされる『大学』で、自ら身を修める道徳を説く。背に負った薪は経済を示すから、金次郎像も「道徳と経済の両立」を具象化しているというわけだ。

鍬を掲げる二宮尊徳像

 さらに「多くの金次郎像が一歩踏み出しているのは、実践することが何より重要だ、ということを示しているのです」と鷲山社長は言う。

 この「道徳経済一円論」は明治期以降の多くの経営者に影響を与えた。生涯に約500社の会社設立に携わり「日本資本主義の父」とも言われる渋沢栄一もそのひとり。渋沢の書いた『論語と算盤』には「仁義と富貴」という項があり「真正の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものではない」と書いている。また、「私は、あくまでも尊徳先生の残された4カ条の美徳(至誠、勤労、分度、推譲)の励行を期せんことを願うのである」とも述べている。


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