フランス政府系造船企業ナバル・グループが、豪州政府から潜水艦事業の大型契約を破棄され、同グループをはじめ、下請け企業が多大な経済損失を被った。今後、20万人の従業員を抱えるフランスの防衛産業はどう傾くのか。
従業員1万7000人のナバルは2016年、豪州で潜水艦12隻を製造する560億ユーロ(約7兆3000億円)の受注契約を結び、フランス防衛産業界には朗報となった。
しかし、豪州は米英が提案する原子力潜水艦の導入を選択し、今年9月15日にフランスとの大型契約を突如、破棄。米英豪とフランスのみならず、欧州連合(EU)を巻き込む外交問題へと発展した。
フランス経済紙『レゼコー』によると、ナバルの下請け会社フィバは、年間総売上の30%を同グループに依拠。現地製造に向け、豪州の関連会社2社を買収していたという。
防衛産業に詳しいウィリー・ロリオ氏は、同紙に「ナバルは関連企業200社を傘下に置いている」と指摘。豪州との開発には「数千人規模の雇用があった」と明かした。
フィバ以外にも、同グループの株35%を保有するタレス社は、米ロッキード・マーティン社と戦闘システム開発で3000万ユーロ(約39億円)の契約を結んでいた。船殻を製造するピネット・エミドゥソ社も同じく、契約破棄で同額の損失を被る見通しだ。
もっとも、同産業全体を俯瞰すれば、今回の潜水艦事業の契約破棄は、それほどの打撃ではなさそうだ。
同国国防省の年次報告書(20年版)によると、防衛産業の年間総売上は、200億ユーロ(約2兆6000億円)に上る。潜水艦や戦闘機などの、サウジアラビアやカタールといった中近東諸国への輸出が増えている。
防衛経済監視機関「エコデフ」の公報によると、軍需物資の貿易収支は、17年に61億ユーロ、18年に63億ユーロ、19年には85億ユーロの黒字を計上している。フランスの防衛産業は年々、増加傾向にあるようだ。
世界全体の軍需物資輸出シェアを見ても、フランスは8・3%で、米国の37.4%、ロシアの19.8%に次ぐ3番目をマーク。ドイツの5.4%と中国の5.1%を大きく上回っている。
フランスにとっての焦点は、米英豪との対外政策をどう修復していくのかという部分になりそうだ。