世界の記述

2021年8月24日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

在欧ジャーナリスト。1976年生まれ。スペイン・バルセロナ大学大学院でジャーナリズム修士。『卵子探しています』(小学館)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞。『安楽死を遂げるまで』(同)で講談社ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ・外国人ぎらい』(PHP新書)がある。
 

 フランス各地で7月から、新型コロナウイルスのワクチン接種を推進するマクロン政権に対し、一部の国民が反対デモを行っている。同月31日には、国内全体で約20万人が参加し、パリでは、国家憲兵隊と衝突した男性2人が逮捕された。

健康パスに反対するフランス市民は「自由」を掲げる (NURPHOTO/GETTYIMAGES)

 同国政府は7月12日、ワクチン接種証明書(健康パス)を持たない国民に対し、飲食店や大規模商業施設、病院や公共交通機関の利用などを禁ずる措置を発表。後に、憲法会議が合憲と判断し、8月9日から実施されている。

 この動きに反発する一部の国民が毎週末、各地でデモ活動を繰り広げている。「健康パスは地獄への第一歩」、「二流市民にはなりたくない」、「選択の自由を」などと書いたプラカードを掲げ、マクロン政権を非難し続けている。

 フランス保健総局は8月2日、国民の63.6%(約4290万人)が1回目、53%(約3570万人)が2回目のワクチン接種を終えたと発表した。

 マクロン大統領は現状、抗議活動を行う国民の声に耳を傾けていない。8月2日、インスタグラムに投稿した自撮り動画で「ワクチン接種は、家族や友人への感染リスクを減らす」と断言。「他人のためにも接種を」と促した。

 フランス南西部ペルピニャンで飲食店を経営する40代の女性は、「マクロンのやり方に疑問がある」と前置きし、「ワクチンを打たない客が来なくなることを考えると、売り上げにも影響が出てくる」と不機嫌そうに語った。

 ワクチン接種は、家族や友人の間でも複雑な問題に発展していることが、大手調査会社「イプソス」が行った7月下旬の調査で明らかになった。調査対象となった1061人のうち、41%が健康パスの話題になると「緊迫状態や深刻な言い争いになる」と回答。また、公共交通機関を利用する際、健康パスを持たない友人がいる場合、73%が利用を諦めるとも答えていた。

 医療従事者に対しては、9月15日までのワクチン接種を義務化し、接種を終えていなければ、無給にする方針。12~17歳の学生については、クラス内に濃厚接触者が出た場合、接種を終えた学生だけが登校を続けることが可能になる。

 健康パス導入の動きは、すでにイタリア、ドイツ、ポルトガルなどにも広がっている。ワクチン接種の徹底は、公共の利益のためなのか、あるいは個人の選択の自由を奪うのか。社会の分断が始まっている。

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真珠湾攻撃から80年
真珠湾攻撃から80年

80年前の1941年、日本は太平洋戦争へと突入した。
当時の軍部の意思決定、情報や兵站を軽視する姿勢、メディアが果たした役割を紐解くと、令和の日本と二重写しになる。
国家の〝漂流〟が続く今だからこそ昭和史から学び、日本の明日を拓くときだ。

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