世界の記述

2021年9月20日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

在欧ジャーナリスト。1976年生まれ。スペイン・バルセロナ大学大学院でジャーナリズム修士。『卵子探しています』(小学館)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞。『安楽死を遂げるまで』(同)で講談社ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ・外国人ぎらい』(PHP新書)がある。
 

 欧州各地で、山火事や洪水被害が相次いでいる。欧州連合(EU)では、気候変動に関する世論調査が年々増加し、選挙戦を左右する動きが表れている。

 今年8月12日、イタリア・シチリア島のカターニアでは、欧州観測史上最高気温の48.8度を記録し、周辺の山火事も連日続いた。ギリシャでは、7月以降、10万㌶が全焼。スペインでは、今年に入ってから、約6000件の山火事で合計4万6600㌶が燃え尽きた。

8月上旬、ギリシャの首都アテネ北部に迫る炎。温暖化が原因とされる熱波により、地中海沿岸諸国では山火事が相次いだ(MILOS BICANSKI/GETTYIMAGES)

 洪水による被害も深刻だ。7月中旬、ドイツ西部で史上最悪の氾濫が発生し、市民約190人が死亡。その後、ベルギーなどにも被害が及び、EUは気候変動による自然災害に警鐘を鳴らしている。

 欧州議会は6月、欧州気候法を採択し、2030年までの温室効果ガス削減値をこれまでの40%から55%(1990年比)に引き上げることに合意した。

 7月5日に欧州委員会が発表したEUの世論調査「ユーロバロメーター」によると、EU市民の93%が気候変動を「深刻」と捉え、90%が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「気候中立」に同意している。

 この結果を受け、同委員会のフランス・ティーマーマンス上級副委員長は、「EU市民が長期的な地球温暖化対策に期待していることを、政治家や企業に発信できた」と述べた。

 これは欧州だけの問題ではない。フランスの調査会社イプソスが今年4月に発表した世界30カ国を対象に行った調査結果がある。

「気候変動を前に、自らがどう行動すべきか理解しているか」との質問に対し、ペルー(85%)とコロンビア(83%)を筆頭に、フランス(72%)や英国(71%)も平均値(69%)を超える理解を示す一方で、日本は最低値(40%)の関心にとどまった。

 このように地球温暖化への危機感が高まる中、EU諸国では、世論調査が直接、選挙戦の要となり、「気候変動選挙」と呼ばれるようにもなっている。

 ドイツでは、ベーアボック共同党首率いる緑の党が9月26日に行われる総選挙を前に、30年までに温室効果ガス削減を70%に設定。緑の党の支持率は、与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)や、連立与党に参加する社会民主党(SPD)と拮抗しており、選挙戦は三つ巴の様相だ。

 フランスでは、昨年の統一地方選で、環境政党「ヨーロッパエコロジー・緑の党」がリヨンやボルドーなどの主要都市で勝利。オーストリアでは、19年の国民議会選で緑の党が議席を奪還し、初の政権参加を果たしている。

 選挙結果がかかっているだけに、EUをはじめ各国政府は年々、地球温暖化対策に必死だ。EUのエネルギー政策を考える際には、その背後にある有権者の高い関心を無視することはできない。

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人をすり減らす経営は もうやめよう
人をすり減らす経営は もうやめよう

日本企業の“保守的経営”が際立ち、先進国唯一ともいえる異常事態が続く。人材や設備への投資を怠り、価格転嫁せずに安売りを続け、従業員給与も上昇しない。また、ロスジェネ世代は明るい展望も見出せず、高齢化も進む……。「人をすり減らす」経営はもう限界だ。経営者は自身の決断が国民生活ひいては、日本経済の再生にもつながることを自覚し、一歩前に踏み出すときだ。

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