チャイナ・ウォッチャーの視点

2021年4月28日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 中国の習近平国家主席はバイデン米大統領主催で行われたオンライン形式の気候変動サミット(4月22~23日)において、「アメリカなど国際社会と共に努力する」と国際協調を打ち出した。その一方で、「中国は2030年までに温室効果ガスの排出ピークを迎え、2060年までに実質ゼロを目指す」と語り、ピークからゼロまでが短時間であるという中国が抱えた事情への理解を国際社会に求めている。

 習主席は対外強硬から国際協調へと姿勢を転換させたのか。はたまた今次サミットへの参加それ自体がバイデン政権への「屈服」なのか――様々に論じられてはいるが、それはさて置き、ここでは現在の中国の指導者世代が気候変動を含む環境問題全般をどのように捉えているのか、考えてみたい。 

 それというのも今回の気候変動サミットに象徴されるように、環境問題が今後の国際政治を動かす大きな要因となるだろうし、であればこそ彼らが身に付けてきた環境や自然に対する見方が中国の進む方向を占うカギになると考えるからである。

(Jorisvo/gettyimages)

 習国家主席が3歳前後だった当時の1956年、児童向けの空想科学物語『割掉鼻子的大象(鼻を切り取られた象)』(遅叔昌・于止著、中国少年児童出版社)が出版されている。

 時は1975年の夏、所は某国営農場。社会主義社会に生きる人々の5年に及ぶ「為人民服務(ふんとうどりょく)」の結果、不毛の荒野は「緑の希望」と呼ばれる大農場に変貌を遂げたのである。社会主義社会だからこそ、ヒトがヒトのために自然を自在に作り変えることが可能となったのだ。社会主義バンザイ、である。

 その国営農場の中心街を巨大な象が群れを成してノッシノッシと進む。「どうして国営農場で象が飼われているんだ」「鋤を引かせるためだよ」「トラクターがあるんだから、象なんて使う必要ないよ」――子供たちの口からは、次々に疑問が飛び出す。

象のように大きな新品種のブタ

 見たところは象だが、不思議なことに長い鼻が見当たらない。切り取られたのではなく、奇妙にも最初から長い鼻ではないらしい。タネ明かしをすれば、人々に豊かな食卓を提供するために改良を重ねて造り出された「奇跡72号」と呼ばれる超大型のブタだった。「図体はデカいが子ブタだよ。柔らかく油が乗っていて栄養満点さ。そのうえ簡単に消化し、味は最高だよ」と、開発責任者は胸を張る。

 社会主義社会だから開発できた先端技術を使えば、象のように大きな新品種のブタを産み出すことも夢ではない。「自力更生」は万能であり、素晴らしくステキなのだ。

 毛沢東が「食べる問題である」と喝破した革命の中心課題である食糧問題は、これで一気に解決可能だ――社会主義中国の明るい未来に、幼い子供たちは目を輝かせたに相違ない。環境破壊ではない。生命を弄ぶわけでもない。人間のためにこそ自然はある。自然は人間本位に改造できる。社会主義バンザイ、である。

 だが、「為人民服務」「自力更生」の掛け声だけでは自然の改造は不可能だった。現実は甘くはない。

 中国を一気に豊かな社会主義社会に押し上げようと毛沢東が1958年に掲げた大躍進政策は、環境に過重な負荷を掛け、環境破壊のスパイラルに落ち込み、中国全土を飢餓地獄に変えてしまい、結果として餓死者の山を築くしかなかった。自然は冷酷非情なまでに人間に復讐する。

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