2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2021年4月28日

果てしなき大海原は、麗しい宝庫

 たとえば『富饒的海洋』(海青編著 天津人民出版社 1974年)は、「果てしなき大海原は、麗しい宝庫である。だが帝国主義、封建主義、官僚資本主義の下に辛吟せざるをえなかった旧中国においては、無限の豊かさを秘めた祖国の大海原は十全に利用されることも開発されることもなかった」と説き出される。

 「東方の水平線の彼方から大空を真紅に染めて太陽が昇り、山河に新しい息吹が吹き込まれた。社会主義は旧社会から労働者と生産手段・材料を解放しただけでなく、旧社会が利用しえなかった広大無辺の自然界をも解放した」と続き、「政治、軍事、経済における海洋の重要性はいよいよ明らかとなり、海洋における闘争もますます先鋭化し、闘いの焦点は侵略と反侵略、略奪と反略奪、覇権と反覇権となった」と言うのだ。

 じつは長期に亘って「帝国主義はわが国の豊かな海域を窺い、絶えることなく我が領海を侵犯している。海洋を認識し、開発し、防衛し、海洋を社会主義祖国にさらによりよく服務させ、世界の革命人民のために本来為すべき貢献をすることは、すでに重大なる戦闘任務となったのである」。

 このような考えに従って、『富饒的海洋』では海水中の化学資源、海底の鉱物資源、温度差や潮位の高低差を利用した発電、海洋生物資源などが詳しく解説されている。だが、やはり海洋を国防の最前線と見なす主張には力が注がれる。

 「海洋は侵略と反侵略、略奪と反略奪、覇権と反覇権が展開されている重要な戦場であり、海洋における闘争では一秒一刻の遅れがあってはならない。わが国人民は世界各国の人民と手を携え、超大国の海洋分割という野望、世界分割支配という陰謀に断固として反対する。勇猛果敢な中国人民は祖国の万里の海域に鉄壁の長城を築き、波濤逆巻く大海原を侵略者を埋葬するための墓場とするのだ」と、激しい訴えが続く。ここまで言われると、

 「アンタに言われたくない」と半畳を入れたくもなる。

 とはいえ、彼らが「南海」と呼ぶ南シナ海、「東海」と名付ける東シナ海に浮かぶ島々や岩礁は「その昔、わが国の労働人民が発見し開発し、わが国の領土と一体不可分のものであり」、南シナ海は「太平洋とインド洋とを結ぶ要衝であり、経済的にも国防の上からも極めて重要な意味を持つ」。かくして一帯の海域は「核心的利益」へと昇華することになるのだから、やはり呆れ返るしかない。

 ――習近平国家主席を頂点とする中国の指導者世代の幼少期から青年期に展開された環境論議を振り返ってみると、四川の小学校四年生の詩を除けば、他は現実離れしたキレイごとに過ぎる。

 だが『富饒的海洋』は、出版から半世紀ほどが過ぎた21世紀20年代初頭の現状をものの見事に“言い当て”ている。現在の強硬著しい海洋進出を文革以来の共産党政権の既定路線と見なすなら、習近平政権の強硬姿勢の背景が分かろうというものだ。

 であればこそ、今次サミットにおける習国家主席の発言は国際協調へと路線転換を意図するわけでも、ましてやバイデン政権への「屈服」などではなく、やはり共産党政権の悲願達成に向けた一手と見なすべきではないか。

  
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