だが、ロシア外務省も、米国務省は米国がシリア反対派に対する軍事支援を行っていないと明言しているにも拘わらず、実際は反対派への武器輸送の「調整」や「ロジスティックな支援」までをも行っているとしてワシントンを批判した。
シリア問題は米ロ冷戦期の代理戦争
この様相は、まさに冷戦期の代理戦争である。特に、1980年代に米国がアフガニスタンのムジャヒディンに武器供与を決定した時から、アフガニスタン内戦が泥沼化していった過去の残像がよみがえる。
加えて、現代では、エネルギー戦略上の代理戦争の要素もある。ロシアがエネルギー覇権国を目指していることは、拙稿でも再三述べてきたが、その上で、中東が混乱していることは、エネルギー価格の上昇や安定エネルギー供給源としてのロシアの石油や天然ガスの重要性向上の面で、ロシアにとっては都合が良い。加えて、シリア情勢の混乱は、ロシアが建設を阻んできた「ロシアを迂回するエネルギールート」のプロジェクトの阻害要素にもなり、政治的・戦略的含意も大きいのだ。
さらに、ロシアが米国、NATOのミサイル防衛(MD)システムの欧州での展開に反対してきたのは、これまでの拙稿でも述べてきたが、シリア情勢に懸念するトルコの依頼で、NATOが対シリア国境近くのトルコ領に、対空ミサイル「パトリオット」配備を決定したことも、シリア情勢に乗じて、MD網を拡大しているとして、ロシアは激しく反発している。
こうしてシリア情勢は泥沼化していったが、その背景には米ロ間の冷戦的状況の深化もあったのである。
ロシアに変化? 見え隠れする「本音」
このように、シリア問題に対するロシアの姿勢は不変であるかのように見られていた。だが、2012年12月に入り、ロシアのサイドに明らかに変化の様子が見えてきた。
12月初旬には、ロシア外務省トップによる、シリア情勢の評価書が出されたが、それによると、ロシアは「アサド政権は政治的にも軍事的にも敗北しつつあり、もはや交渉による解決は不可能だとみている」ことが明らかになった。特に、シリア政府側がスカッドミサイルやサリンなどの神経ガスを用いたとされる報道は、ロシアにとっても打撃となったようだ。
そして、12月13日に、ロシアのミハイル・ボグダノフ外務次官は、シリア情勢について「(政権側が)シリア国内の広い範囲でますます支配を失いつつある」とした上で、反対派の勝利の可能性を排除しない旨の発言を行った。翌14日にはその発言内容は撤回されたものの、それこそが「ロシアの本音」だと見る向きは少なくなかった。加えて、米政府もロシア政府が「ようやく現実に目覚めた」として、その発言を歓迎すると共に、ロシアが米国などと組んでシリアの民主化に共闘していく可能性が出てきたという見解も示した。