こうして、シリアの内戦は悪化の一途を辿り、死傷者や難民が激増する中、国際社会のロシアに対する風当たりも強くなっていった。欧米のみならず、中東諸国の多くもロシアのアサド支援が続いて、混乱が長期化すれば、中東全域でイスラム過激派が台頭し、内戦や宗教観紛争のリスクが益々高まるとして、ロシアのシリア支援には批判的だ。
親米的なシリア政府の構築を目指す米国
ロシアが2012年を通して、欧米の対シリア政策に反対を貫いたことは、シリア内戦の泥沼化の要因といわれてきたが、実はその背後には、米ロ間の冷戦的状況の深化もあった。
ロシアの国営企業がシリア体勢派に武器を供与し続け、そのことを米国政府が再三にわたって批判していた。しかし、2012年6月には米国のCIAがシリア反対派に武器を供与していること、さらに少人数の中央情報局(CIA)官僚がトルコ南部に配備され、群雄割拠していたシリア反対派のどのグループに武器を供与するか決定しているということが報じられたのである。
さらに、8月には、オバマ大統領が、CIAによる秘密工作を承認することで、反体制派を密かに支援することを可能にする文書に署名したというのだ。本署名内容からは、武器の供与などが含まれていないとはいえ、アサド政権の打倒に向けて米国政府が積極的に動いていることがこれで明らかになった。
米国の目的は、親米的かつ民主的に選択されたシリア政府を構築することと、シリアの軍や治安部隊を掌握することにより、シリアの兵器、とりわけ化学兵器のヒズボラなど過激派への流出を封じ込め、主に米国を狙った世界におけるテロを未然に防止するということである。加えて、イランとロシアの中東への影響力ないし地域覇権を阻止する思惑も強く持っている。
武器貸与を巡る米ロの非難合戦
なお、米ロは武器貸与に関しても互いを非難し合っている。ロシアのラブロフ外相は、ロシアのシリアに対する武器供与は(米国から再三批判を受けているが)国際法に反していないが、米国のシリア反対派に対する武器供与はシリア政府を脅かすものだとして米国を激しく批判した。また、ロシアは米国と違って、シリアでもその他の地域でも、平和的住民に使用される武器は一切供与していない、とも主張している。
10月には、ロシアのニコライ・マカロフ将軍が、シリア反対派が米国製を含む外国製の兵器を多数所持していることを明らかにし、その出所の明確化と取り締まりの必要性を主張した。これに対し、米国務省サイドは、米国はそのような武器供与を一切しておらず、米国がシリアで目撃しているMANPADは全てソ連製だとしてマカロフ将軍の発言内容を否定した。