2023年1月30日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2021年12月3日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

清朗なく正しいネット世論サイバースペースの構築という業績

 たいした話ではないように思えるが、それは21年現在だからこそ言えることだ。10年代前後、胡錦濤体制末期においてはインターネットの発展に伴い、ソーシャルメディアやウェブメディアで現在の社会体制について苦言を呈することが流行していたほか、群体事件(デモやストライキ、抗議集会などを総称する中国語)の発生数は年10万件を超えていた。

 アラブ世界で多くの政権交代の要員となった、いわゆる「アラブの春」が起きたのは10年から12年にかけてである。当時は、インターネットに後押しされたネット世論の発展が独裁体制を転覆させるとの考えは決して奇異なものではなかった。

 こうした状況で総書記として就任したのが習近平だ。現代中国研究家の津上俊哉氏は「満塁で登板したリリーフピッチャー」という秀逸な例えで表現していたが、習近平は硬軟織り交ぜた投球術でこの危機を乗り切ったと評して間違いはない(なお、習近平のネット世論対策については拙著『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』祥伝社、2015年に詳しい)。

 歴史決議ではネット世論対策について、「党中央は、ネット世論にしっかりと対応できなければ、長期的執政がありえないと明確に指摘した。党はイデオロギー闘争における主陣地、主戦場、最前線としてのインターネットを高度に重視して、インターネットに対する指導・管理体制を整備し、法に基づいてインターネットの管理・ガバナンスを堅持し、清朗なサイバースペースを築き上げた」と総括している。

アイドルオーディション番組の規制も「功績」?

 最後に「清朗なサイバースペース」なる文言がある。この言葉につながるのは中国サイバースペース管理局(CAC)による、ネット浄化プロジェクトの「清朗行動」だ。ネットにおける醜い行動、問題構想を取り押さえるというものだが、今年は中国経済の先行きを不安視するようなウェブメディアの取り締まりといった、ちょっと硬めの内容もあるが、多くはアイドルオタクグループの争いごとを防ぐ、韓国の人気番組「プロデュース101」に類似したアイドルオーディション番組の規制、中性的な外見をした芸能人の取り締まり、ゲームや生配信などのサブカルチャーといった芸能領域に集中している。

 アイドルオタク取り締まりが習近平体制10年の成果だと言われても困惑してしまうが、この間のネット世論対策は「問題ある言論を封殺する」だけではなく、「ポジティブなネット空間、清いネット空間を作り出す」という、より主体的なアクションに変わった。娯楽も含めたネット粛清と清きムード作りも、重要な方針というわけだ。

 歴史決議は採択されたが、来年の党大会に向けて、習近平総書記は今後もさらに権威強化に向けた取り組みを続けることになるだろう。「こんなにエンタメを叩く必要あるの?」と諸外国を驚かせている文化面での対策が今後も炸裂するのではないか。

  
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