2023年1月28日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2021年12月3日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 そもそも、過去の歴史決議において、「錯誤」とはもっとも重要なワードであった。1945年の第1回目の歴史決議、「若干の歴史問題に関する決議」では約2万8000字の文章中に123回にわたり登場する。

 第1回の歴史決議では周恩来、陳毅、彭徳懐など幹部のあやまちが次から次へと指弾される。特に一次は党総書記も務めた王明ら左派を徹底的に批判し、「党が一時期に犯した左右系統のあやまちは24年間にわたる我が党領導下における中国革命事業の雄大なる発展と偉大なる成績、豊富な経験からすれば一部の現象に過ぎない」「今日にいたり、全党は毛沢東同志の路線の正確性を空前の一致で認識した」と総括している。

 81年の第2回目の歴史決議「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」では、約3万4000字の中に95回にわたり「錯誤」が登場している。批判の対象となったのは主に急進冒険主義的な文化大革命により中国の経済発展を大きく遅らせたこと、その文化大革命を生み出した毛沢東に対する過剰な個人崇拝と権力集中が反省され、「我が国を現代化させた、高度民主的かつ高度文明的な社会主義強国へと徐々に発展させるために努力奮闘しよう」とのスローガンで締めくくられている。

大半の「あやまち」が第1回と2回と同じ問題

 一方、今回発表された第3回目の歴史決議「党の100年奮闘の重要な成果と歴史的経験に関する中共中央の決議」には、わずか14回しか「あやまち」という言葉が出てこない。しかも、その大半は第1回、第2回歴史決議と同じ問題に対する言及である。過去の路線を修正する意味合いがあった、第1回、第2回の歴史決議とは性格が異なることはここからも明らかだ。

 それでも数少ない「錯誤」を拾い上げることによって、習近平体制が中国共産党のどのような問題を修復したのかという論理を読み解くことができる。

 特に重要なのは第4部分にあたる「中国の特色ある社会主義の新時代を切り開く」だ。習近平総書記が選出された、2012年の第18回党大会以後に、中国共産党がどのような成果を挙げたのかをまとめたパートである。

 ここでは下記の13分野にわたり、成果がまとめられている。

1:中国共産党による領導の堅持
2:党の紀律強化
3:経済建設の推進
4:改革開放の深化
5:中国式政治の堅持
*憲政、政権交代、三権分立など西側由来のイデオロギーの浸透を防いだ
6:法治の強化
7:文化建設
8:社会建設
*貧困や新型コロナウイルス対策など
9:環境対策
10:軍事力強化
11:安全保障の強化
12:台湾や香港の統一促進
13:外交の強化

 言ってしまえば、あらゆる分野で成果をあげたということになるのだが、「錯誤」、すなわちそれまでは問題があったという前提がほとんどないため、今一つ盛り上がりに欠ける。

唯一「錯誤」が見られた部分とは?

 ところがこの13分野のうち、唯一、文化建設にだけは、「錯誤」が登場する。新華社発表の日本語版に基づき、該当箇所を引用しよう。

 拝金主義・享楽主義・極端な個人主義・歴史ニヒリズムなどの誤った思潮が時折現れ、ネットでは様々な声が飛び交い、世論が混乱をきわめ、一部の指導幹部は政治的立場があいまいで、闘争精神を欠き、人々の思想や世論環境に深刻な影響をもたらした。

 イデオロギー分野における多くの方向性・戦略性にかかわる問題について解決策を講じることにより、イデオロギー分野におけるマルクス主義の指導的地位という根本的制度を確立・堅持し、イデオロギー活動の責任制を強化し、全党を挙げて宣伝思想工作に着手し、取り組みに対してしっかりと責任を持ち、責任を負い、責任を果たし、決然と指導・管理を強化し、果敢にそれに立ち向かい、さまざまな誤った観点に旗幟鮮明に反対し、食い止めた。

 わかりづらい訳文だが、つまるところ言論、世論が乱れていた状況こそが今回の歴史決議において唯一、新たに取りあげられた「錯誤」であり、それを正したことが習近平体制にとっての重要な功績と言える。


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