実態は、そのような“きれいごと”ではない。ところが、このカリフォルニア州の州民投票も、日本のマスメディアは簡単に結果を報じたのみで、その内実に踏み込む報道はありませんでした。
「フランケンフィッシュ」?
遺伝子組換えサケの行方
最後に、遺伝子組換えサケについて。遺伝子組換え作物はこれまで、トウモロコシや大豆など、飼料や油の原料などとして主に使われてきました。どこの国でも、消費者が直接食べる食品、いわゆるテーブルミートに組換え技術を導入することへの抵抗感は強くあります。そのため、組換え小麦等の開発もアメリカやEUなどで行われながらも、まだ遅々とした歩みです。
ところが、アメリカで年末も押し詰まった12月21日、食品医薬品局(FDA)が環境アセスメントにおいて、組換えサケが環境に重要な影響をもたらさない、とする結果を発表したのです。FDAは、すでに食べても非組換えサケと同等に安全とする評価を公表しています。今後は、環境アセスのパブリックコメントを経て、食品として認可するかどうか、最終ステップに差し掛かる、ということになります。
(出典: Aquabounty社) http://www.aquabounty.com
この組換えサケは、別種のサケが持つ成長ホルモンの遺伝子が導入されており、成長スピードが2倍程度早いとされています。よく、組換えされた大型のサケと、同年齢の小さい非組換えサケが並んだ写真が掲載されるため、組換えサケはばかでかい、と思っている人が多いようですが、成魚の大きさ自体は変わりません。
少ない飼料で育ち、しかも海ではなく内陸のタンクで養殖します。こうすることで、環境、消耗が激しい海の資源も守ることができるというのが、開発した企業の主張。たしかに、魚は中国の人口増で消費量が増えているうえ、欧米でもDHA等体によい成分が含まれ肉に比べて健康と推奨され、人気を集めています。今後も消費量は増えるとみられ、養殖にも期待がかかります。
FDAは、環境アセスを行った結果、内陸で養殖され、しかも不妊化されたメスを飼育するので、逃げ出して野生のサケと繁殖して自然に影響を及ぼすリスクはきわめて低い、と結論づけました。しかし、遺伝子組換えには比較的寛容なアメリカ人であっても、食卓の皿の上に乗る魚が……と考えると抵抗感を覚えるのか、「フランケンフィッシュ」などと表現するメディアもあり、2013年のアメリカはおそらくこの問題で、大揺れになるはずです。