そもそも、FDAのこの環境アセス案は、2012年5月4日の日付。FDAはこの内容の公表を何カ月も“塩漬け”にしていたのです。この行動は、賛成派、反対派の双方に波紋を呼んでおり、「今年は大統領選の年だったからね」とコメントしている市民団体もあることを、Natureニュースも伝えています。食は身近な問題で関心が高く、なおかつ、だれでも一家言持っているもの。オバマ大統領が選挙前の論戦を避けた、というのは、あながち外れていないだろう、と思えます。
この問題、日本では朝日新聞が2012年12月22日、報じました。しかし、G-searchの新聞・雑誌記事横断検索で調べても13年2月1日現在、ほかのメディアはこの環境アセス案をまったく取り上げていません。
アバウトな情報ばかりで
是非を論じることもできない日本
主な“事件”を駆け足で追いかけてきました。2012年が遺伝子組換え技術を巡って世界が大きく揺れた年であったことを、わかっていただけたと思います。
2013年も年明け早々、英国の英国環境・食料・農村地域省のOwen Paterson大臣が「オックスフォード農業会議」の席上で、遺伝子組換え技術は農薬やエネルギーの使用量を減らし、リスクとベネフィットのバランスを検討すると、ベネフィットが非常に大きい技術だとして、支持を明確にしました。英国はこれまでも、遺伝子組換え技術を食料増産の一方策と位置づけ、近年はリスクコミュニケーションに力を入れています。改めてその姿勢を明確にしたのです。また、これまで過激な反対運動を続けてきた活動家が同じ会議で「科学的に検討した結果、これまでの活動をお詫びする」と謝罪し、遺伝子組換え推進の姿勢を明確にしました。この“転向”は英国だけでなく米国や他のEU各国、アジア、アフリカ等でも、大きな話題となっています。
では、日本は? 日本人も前篇で書いたように、遺伝子組換え作物を食用油や清涼飲料水などの糖分などとして大量に摂取し、家畜の飼料に用い、その家畜の肉や卵、乳などを食べています。なのに、世界の動きが一般市民には伝えられず、報道されるのは、「TPPに参加すると、アメリカの制度と同じになるに決まっている」というような、あまりにもアバウトな話ばかり。これでは、是非を論じることもできない。この危機をこそ、皆さんに気づいてほしいのです。
<参考文献>
・FOOCOM.NET「GMOワールドII」バックナンバー
http://www.foocom.net/category/gmo2/
・コーデックス委員会の有機食品ガイドライン(農水省訳)
http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/codex/standard_list/pdf/cac_gl32a.pdf
・Los Angeles Times社説
http://www.latimes.com/news/opinion/endorsements/la-ed-end-prop37-20121004,0,2668604.story
・FDAの遺伝子組換えサケにかんするページ
http://www.fda.gov/AnimalVeterinary/DevelopmentApprovalProcess/GeneticEngineering/GeneticallyEngineeredAnimals/ucm280853.htm
・Naturenews「Transgenic fish wins US regulatory backing」
http://www.nature.com/news/transgenic-fish-wins-us-regulatory-backing-1.12130
・The Guardian「GM food: British public 'should be persuaded of the benefits'」
http://www.guardian.co.uk/environment/2013/jan/03/gm-food-british-public-persuaded-benefits?INTCMP=SRCH
・FOOCOM.NET 編集長コラム「遺伝子組換えサケ、あなたはどう思う?」
http://www.foocom.net/column/editor/8459/
・英国オックスフォード農業会議
http://www.ofc.org.uk/
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