自らのエラーを得点に変える天才
ただし、トランプ前大統領は自らのエラーを得点に変えてしまうほど、豪胆で傲慢な人物。自身の失策であった新型コロナウイルス対応を、バイデン氏の失策にすり替えようと試みている。
米疾病対策センター(CDC)によれば、米国における20年の新型コロナウイルスによる死者数は38万5343人。21年12月3日時点で、昨年からの死者数は78万4893人。今年だけで39万9550人が死亡し、昨年を上回った。そこで、増加し続ける死者数を利用してバイデン氏の失策として糾弾するわけだ。
特にトランプ氏にとって追い風なのは、共和党支持者の約60%がワクチン未接種者であることだ。バイデン氏やロシェル・ワレンスキーCDC所長は、ワクチン未接種者のコロナ感染に強い警告を発してきた。
ところがトランプ支持者は中央政府には「闇の政府(ディープステート)」が存在し、エリート層がワクチンに関する誤情報を拡散して、彼らを支配しようとしていると信じている。米メディアもその役割を担っていると考えている。
トランプ支持者はワクチンという科学ではなく、フェイクニュースに引き寄せられていき、死者数を増やしてくれるわけだ。トランプ氏にとってワクチン未接種の支持者は、バイデン大統領のコロナ対策を糾弾する上で、実に都合の良い存在になっている。
トランプの弱点
先の大統領選挙ではトランプ前大統領は東部ペンシルべニア州、中西部ミシガン州、ウィスコンシン州、南部ジョージア州並びに西部アリゾナ州を含めた激戦州を落とした。にもかかわらず、これらの地域での目立った動きはない。
むしろバイデン氏は、ペンシルべニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州やジョージア州を訪問し演説を行っている。ファーストレディのジル夫人とセカンドジェントルマンのエムホフ氏は6月、アリゾナ州のワクチン接種会場を訪れた。米メディアはこれらの一連の訪問を、すでに24年を見据えた動きだと報じている。
バイデン氏の内政と外交は「集中的選択」だが、選挙においてもこの特徴が鮮明に出ている。特に注目すべきは、バイデン氏が11月にミシガン州にあるゼネラルモーターズ(GM)の電気自動車(EV)を製造する工場を訪問したことだ。そこでバイデン氏は、全米自動車労働組合(UAW)がある企業だけに優遇税制を行うと発表した。GM、フォード、ステランティス(クライスラーの親会社)のビッグ3をピンポイントで支援する政策を打ち出したのだ。標的は中西部の労働者票だ。ちなみに、日系自動車メーカーやテスラは優遇税制の対象にはならない。
戦略的に州を訪問して標的となる有権者にアピールする政策を打ち出すバイデン氏が、トランプ氏を一歩リードしている様相で、正に「集中的選択」の選挙手法だ。
トランプ氏は前回の選挙で落とした激戦州を奪回する策はあるのだろうか。これなくしてトランプ氏の再選はおぼつかないと言わざるを得ない。