1979年、米国の支援を受け中米ニカラグアで独裁体制を敷いていたソモサ一族に対し、ダニエル・オルテガ率いる左翼ゲリラが革命を起こした。先進国で脱左翼、脱政治が進む中、「アメリカ帝国主義の圧政」と闘うゲリラの姿に拍手を送った人も多かった。米国で83年に封切られた映画『アンダー・ファイア』もニカラグアの貧者を救おうとするゲリラを美しく親しげに描いていた。
だがそのゲリラの末路は堕落もいいところで、「左翼は結局、庶民を不幸にする」という事例をベネズエラに続いて一つ増やしただけだった。
2021年11月の大統領選で、オルテガ大統領は自ら改変した憲法に従い、形ばかりの対抗馬を相手に4度目の再選を果たした。政府寄りの選挙管理委員会は6割以上の投票率と発表したが、国民の8割がボイコットしたと複数の海外紙が伝えている。それでも22年1月に始まる5年任期を全うすれば27年初めまで連続20年も君臨することになる。1985年から90年の第1次オルテガ政権を含めれば計25年である。しかも現副大統領はオルテガ氏の妻だ。
勝利できたのはソモサ独裁も顔負けの恐怖政治にある。国家警察は同国初の女性大統領の娘で野党党首のクリスティアナ・チャモロ氏を6月に自宅軟禁した。この他、選挙前に計6人の大統領候補予定者と150人以上の政治家や野党勢力を投獄または軟禁状態にした。革命で共闘した仲間も投獄し、第1次政権時の副大統領で作家のセルヒオ・ラミレス氏は、オルテガ氏の悪政を伝える小説を発表するため、隣国コスタリカに亡命せざるを得なかった。
弾圧は住民にも向けられる。人権団体によると、2018年4月に始まった反政府デモの取り締まりで少なくとも300人が死亡、150人以上が今も拘束されたままだ。18年以来、少なくとも8万人がコスタリカに亡命を要請している。
オルテガ氏の再選を支持したのはロシア、イラン、ベネズエラ、キューバ、ボリビアなどで、他の中南米諸国や米国は選挙結果を認めていない。米大陸の国々が加盟する米州機構(OAS)も大統領選を「正統性がない」と非難する決議を採択した。
これを受け、オルテガ政権は機構からの脱退手続きを始めた。このままオルテガ政権が孤立すれば、ベネズエラの二の舞になる。累積で10億㌦を超す世界銀行や米州開発銀行(IDB)など国際機関からの支援金が滞れば、住民弾圧がさらに強まりかねない。
ニカラグアの革命の末路は、もはや理想のかけらもない迷宮に入り込みそうだ。
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