2024年11月22日(金)

世界の記述

2022年1月16日

 1979年、米国の支援を受け中米ニカラグアで独裁体制を敷いていたソモサ一族に対し、ダニエル・オルテガ率いる左翼ゲリラが革命を起こした。先進国で脱左翼、脱政治が進む中、「アメリカ帝国主義の圧政」と闘うゲリラの姿に拍手を送った人も多かった。米国で83年に封切られた映画『アンダー・ファイア』もニカラグアの貧者を救おうとするゲリラを美しく親しげに描いていた。

オルテガ大統領(写真中央)は米州機構脱退の構えだ (GETTYIMAGES)

 だがそのゲリラの末路は堕落もいいところで、「左翼は結局、庶民を不幸にする」という事例をベネズエラに続いて一つ増やしただけだった。

 2021年11月の大統領選で、オルテガ大統領は自ら改変した憲法に従い、形ばかりの対抗馬を相手に4度目の再選を果たした。政府寄りの選挙管理委員会は6割以上の投票率と発表したが、国民の8割がボイコットしたと複数の海外紙が伝えている。それでも22年1月に始まる5年任期を全うすれば27年初めまで連続20年も君臨することになる。1985年から90年の第1次オルテガ政権を含めれば計25年である。しかも現副大統領はオルテガ氏の妻だ。

 勝利できたのはソモサ独裁も顔負けの恐怖政治にある。国家警察は同国初の女性大統領の娘で野党党首のクリスティアナ・チャモロ氏を6月に自宅軟禁した。この他、選挙前に計6人の大統領候補予定者と150人以上の政治家や野党勢力を投獄または軟禁状態にした。革命で共闘した仲間も投獄し、第1次政権時の副大統領で作家のセルヒオ・ラミレス氏は、オルテガ氏の悪政を伝える小説を発表するため、隣国コスタリカに亡命せざるを得なかった。

 弾圧は住民にも向けられる。人権団体によると、2018年4月に始まった反政府デモの取り締まりで少なくとも300人が死亡、150人以上が今も拘束されたままだ。18年以来、少なくとも8万人がコスタリカに亡命を要請している。

 オルテガ氏の再選を支持したのはロシア、イラン、ベネズエラ、キューバ、ボリビアなどで、他の中南米諸国や米国は選挙結果を認めていない。米大陸の国々が加盟する米州機構(OAS)も大統領選を「正統性がない」と非難する決議を採択した。

 これを受け、オルテガ政権は機構からの脱退手続きを始めた。このままオルテガ政権が孤立すれば、ベネズエラの二の舞になる。累積で10億㌦を超す世界銀行や米州開発銀行(IDB)など国際機関からの支援金が滞れば、住民弾圧がさらに強まりかねない。

 ニカラグアの革命の末路は、もはや理想のかけらもない迷宮に入り込みそうだ。

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■破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
 マンガでみる近未来    高騰する物価に安保にも悪影響  財政破綻後の日常とは?
漫画・芳乃ゆうり 編集協力・Whomor Inc. 原案/文・編集部
PART1 現実味増す財政危機  求められる有事のシミュレーション
佐藤主光(一橋大学大学院経済学研究科 教授)
PART2 「脆弱な資本主義」と「異形の社民主義」 日本社会の不幸な融合
 Column  飲み会と財政民主主義
藤城 眞(SOMPOホールディングス 顧問)
 COLUMN1  お金の歴史から見えてくる人間社会の本質とは?  
大村大次郎(元国税調査官)
PART3 平成の財政政策で残された課題  岸田政権はこう向き合え
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)
​PART4 〝リアリティー〟なきMMT論  負担の議論から目を背けるな
森信茂樹(東京財団政策研究所 研究主幹)
 COLUMN2  小さなことからコツコツと 自治体に学ぶ「歳出入」改革 編集部
PART5 膨らみ続ける社会保障費 前例なき〝再構築〟へ決断のとき
小黒一正(法政大学経済学部 教授)
PART6 今こそ企業の経営力高め日本経済繁栄への突破口を開け
櫻田謙悟(経済同友会 代表幹事・SOMPOホールディングスグループCEO取締役 代表執行役社長)
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土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)

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Wedge 2022年1月号より
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか

日本の借金膨張が止まらない。世界一の「債務大国」であるにもかかわらず、新型コロナ対策を理由にした国債発行、予算増額はとどまるところを知らない。だが、際限なく天から降ってくるお金は、日本企業や国民一人ひとりが本来持つ自立の精神を奪い、思考停止へと誘(いざな)う。このまま突き進めば、将来どのような危機が起こりうるのか。その未来を避ける方策とは。“打ち出の小槌”など、現実の世界には存在しない。


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