2024年12月7日(土)

世界の記述

2021年10月15日

 中米でも古くから「働き者の国」と呼ばれてきた国、エルサルバドルが今年9月、仮想通貨ビットコインを国の法定通貨に取り入れた。世界初の試みだ。「世界で最もクールな独裁者」を自称する 起業家出身、40歳のナジブ・ブケレ大統領の発案だが、うまく機能するのか。国民の大半が扱い方がわからない現実に加え、財政をビットコインに託す大胆な賭けを非難する声も少なくない。

chekyfoto / Getty Images Plus

 面積は日本の四国ほどだが、人口はその倍近い660万人(2018年)を数える火山の国、エルサルバドルに向けられた批判はこういうものだ。自国通貨をビットコインにしたら、不安定なばかりか、 債務超過やインフレ抑制の道具を手放すことになる、などだ。だが、エルサルバドルは通貨安定を理由に1993年に通貨コロンを米ドルに固定し、さらに2001年には米ドルを国の通貨にしている。1992年の内戦終結後はコロンビアと並んだ親米国で、小国ながら2000年代前半には米大使館に200人ものスタッフがいた。自国通貨を捨て国財の運命を米ドルに託してすでに28年、通貨を国外に任せるという点でエルサルバドルは先達者であり、先の批判は当たらない。

 ドル導入時も不安の声が上がったが、エルサルバドルではまるで1ドル札が1000円札のように、1セント玉が人の手で擦り減るほど大事に使い込まれている。

 政府は9月7日、国内200箇所にビットコインATMを開設し、チーボ(Chivo)と呼ばれる取引用のアプリ・ネットワークを導入した。通貨は米ドルとの併用になったが義務化されておらず、利用を促すため、政府は全国民に30ドル相当のビットコインを配布した。その結果、9月末時点で国民の3分の1がチーボを利用したと国は宣伝している。

 エルサルバドル人は3割以上に当たる国民が国外で出稼ぎをしており、その送金額は国内総生産(GDP)の22%に相当する。国民の7割が銀行口座を持っておらず、米ウエスタンユニオンなど国際送金サービスを通す送金には手数料がかかるが、ビットコインの場合、ごくわずかで済む。このため、送金額が一気に増えるというのも大統領の目算だ。

 ただし、ビットコインの導入で国債価格が落ち、債権者の国際通貨基金(IMF)との債務交渉も頓挫してしまい、あまりいい結果は出ていない。

 近隣を見ると破綻国家ベネズエラでは送金を中心にビットコインがうまく機能している。19年1月に発行した自国発の仮想通貨「ペトロ」は失敗に終わったが、ビットコイン取引額は米ロに続き世界3位につけている。自国通貨ボリバルの信用失墜がもたらしたものだが、自国通貨の米ドルが安定しているエルサルバドルは条件が違う。大統領は仕切りに国の斬新さを宣伝するが、果たして投資促進につながるのか。その実験は、仮想通貨そのもの未来を占うものになりそうだ。

 
 
 
 

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