2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年5月17日

 中央アメリカからの移民の流出を止めるためにその原因となる現地の貧困や治安の問題に直接取り組むとのバイデン政権の姿勢は高く評価される。しかし、資金援助と腐敗対策や治安維持支援だけでは十分ではなく、自律的な成長が始まるような投資やビジネスの活性化のための環境整備が必要である。

wildpixel / iStock / Getty Images Plus

 4月22日付けフィナンシャル・タイムズ紙社説‘Central America needs a bold gesture from the US(中央アメリカが必要とする米国の大胆な意思表示)’は、NAFTAの後継であるUSMCAへの中米諸国の参加を提言する。社説は次の点を指摘する。

・中米の問題に対するバイデン政権の回答は、40億ドルの援助を背景にした、移民の根本原因に取り組む大規模なイニシアティブである。政府だけでなく、企業や市民社会と協力する必要性を強調し、民主主義、法の支配、汚職撲滅を強調しているのは当を得たものだ。

・しかし、問題の規模を考えると、これだけでは十分とは言えない。欠けているのは、この地域のビジネスと投資の環境を変え、ニアショアリングの機会を活用する大胆な姿勢である。そのような行動は、中国のますますの接近に代わる建設的な選択肢をラテンアメリカに提供することにもなる。

・米国政府は保護主義を捨て、中米にUSMCAへの参加を呼びかけるべきだ。そうすれば、アメリカ大陸全体をカバーする自由貿易地域というクリントン政権時代のビジョンで、現在でも説得力のあるビジョンへの一歩となる。

 社説が言うUSMCAへの中米諸国の参加は、パナマやコスタリカであれば可能性もあるかもしれないが、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスは労働条件、農産品、種々の規準等の面で米国内に抵抗があり容易ではないだろう。

 米国は、既に中米5か国及びドミニカ共和国の間でのFTA(CAFTA-DR)を有しているが、米国との直接貿易の拡大は地域の経済成長に結びつくほどのものとはならなかった。むしろトランプ政権は、ニカラグア政権の専制独裁主義、エルサルバドルとドミニカが過度に中国の一帯一路構想に依存していることを理由にこれら3か国を排除することを検討したとされる。バイデン政権としても、中米諸国をひとくくりで扱うことは難しいであろう。

 メキシコも中米5か国との間にFTAを有しており、中米5か国がUSMCAに加入するよりも、USMCAとメキシコ・中米FTAの間で、中米で製造されメキシコに輸出される部品等について、その部分もメキシコ原産とみなすような補助的な協定を関係国間で締結することにより、中米を北米市場へのサプライチェーンに組み込むことを目指す方が現実的であろう。これにより、部品製造企業等の中国からの工場移転の受け皿になる可能性もあろう。

 もっとも、工場を移転すればそれで済むわけではなく、原材料等の調達可能性や労働力の質、下請け企業の存在等部品企業を支える条件やインフラが整備されていなければサプライチェーンの一角を占めることはできないので、ハードルは高い。また、メキシコ・中米FTAとUSMCAをリンクさせる場合にもニカラグアの扱いが問題となろう。

 しかし、重要なのは成果をあげるのに時間はかかっても、そのような将来へ向けての希望に可能性を開くことではないかと思われる。

  
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