「12月7日」「9月11日」と「1月6日」
バイデン大統領の演説に対するトランプ前大統領の反論を紹介する前に、カマラ・ハリス副大統領の演説にも注目したい。
ハリス副大統領も1月6日米連邦議会で演説を行い、1941年12月7日、2001年9月11日および2021年1月6日を同列に論じた。日本による真珠湾攻撃、国際テロ組織アルカイダによる同時多発テロ、トランプ支持者による連邦議会議事堂乱入事件は、どれも米国の民主主義への攻撃だと言うのだ。ハリス氏が民主主義への攻撃の日として、1月6日を米国民の記憶に刻まれるのを望んでいることは理解できる。
日本人の筆者は3つの歴史的事件の同列の扱いに多少違和感を持ったが、同時に連邦議会議事堂乱入事件を巡る認識の相違に気づいた。一部の日本メディアは「1月6日」を米国の歴史に汚点を残した日になったと報道している。
だがハリス氏はトランプ支持者から攻撃を受けた後、米連邦議員は議事堂に戻り、獲得選挙人の確認作業を終了させたと述べて、米憲法に対する彼らの忠誠心の高さを称えたのだ。バイデン大統領は演説で、暴力による選挙結果の覆しを試みたトランプ支持者について「彼ら(トランプ支持者)は失敗した」と語気を強めて、「民主主義の勝利」であるという認識を示した。
つまり、バイデン・ハリス両氏は1月6日は汚点を残した日ではなく、米国が民主主義の強さを示した日と認識しているのだ。
「すり替え戦術」と「矮小化戦略」
バイデン大統領が演説でトランプ前大統領が「嘘のネットワーク」を作り拡散したと糾弾すると、同前大統領は「彼らが私とロシアについて4年間、2016年の選挙結果を覆すために嘘のネットワークを拡散した」という声明を発表した。
同じ声明文の中でバイデン氏が勝利した南部ジョージア州では投票用紙が10ドルで売られていたと根拠のない主張をした。そしてトランプ氏は「20年の大統領選挙の犯罪を決して忘れるな」と支持者に訴えた。
トランプ氏を擁護する共和党議員は、連邦議会議事堂乱入事件に関して「トランプ支持者は観光客に過ぎなかった」「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命だって重要なんだ)運動の方が死者数は多かった」「トランプ支持者は警察官にハグやキスをしていた」など、事件を小さく見せる発言をして援護射撃を行った。
マイク・ペンス前副大統領は21年1月6日、各州におけるバイデン氏の獲得選挙人を確認し、同氏の勝利を宣言して暴動を非難した。ところがそのペンス氏も同年10月4日、「たった1日の悲劇」と語り、事件の矮小化を図った。
大統領選挙の結果を無効にしなかったので、トランプ支持者から「裏切り者」とレッテルを張られたペンス氏は、彼らと「和解」をしたかったのだろう。24年大統領選挙を視野に入れていると言われているペンス氏にとって、トランプ支持者を敵に回せないことは明らかだ。
これに対して連邦議会議事堂乱入事件の際、トランプ支持者からペッパースプレーをかけられ、人種に関する中傷の言葉を浴びた2人の警察官が1月4日、米ワシントン・ポスト紙に共同寄稿した。その寄稿文の中で、彼らは「我々が暴力から守った議員が、実際に起きたことを取り繕うとしている」と批判した。
トランプ氏と同氏を支持する共和党議員は連邦議会議事堂乱入事件よりも、大統領選挙の不正の方が民主主義への本当の脅威であると言いたいのだ。米国民の目を議事堂乱入事件から大統領選挙の不正に逸らす思惑が見え隠れする。