トランプは「1月6日」をフェイク(偽の)ニュースにできるのか?
ただ、トランプ氏と同氏を擁護する共和党議員の「すり替え戦術」と「矮小化戦略」は成功する可能性は低いだろう。というのは、バイデン大統領、下院特別調査委員会のベニー・トンプソン委員長(民主党・南部ミシシッピー州)およびリズ・チェイニー副委員長(共和党・北西部ワイオミング州)らは、トランプ前大統領が1月6日、米政府機関が攻撃を受けているのにもかかわらず、ホワイトハウスの執務室の傍にあるプライベートのダイニング・ルームで、187分間も対策を講じずにテレビに見入っていたと強く非難しているからだ。
トランプ氏は米軍最高司令官としての役割をまったく果たしていなかった。下院特別調査委員会で今後開催される公開の公聴会で、トンプソン委員長とチェイニー副委員長が米国民に上の点を効果的にアピールできれば、すり替え戦術と矮小化戦略は無党派層まで効果を上げないだろう。
加えて、民主党はトランプ前大統領の20年大統領選挙における発言と、1月6日の連邦議会議事堂乱入事件を結びつけてくる可能性があるからだ。トランプ氏は21年5月25日、中西部ミネソタ州でアフリカ系男性のジョージ・フロイド氏が白人警察官に殺害されると、ブラック・ライブズ・マター運動の抗議活動家を悪者に仕立て、自分を「法と秩序」の大統領として演出し警察官を擁護した。
だが、議会議事堂乱入事件では警察官が暴徒に攻撃を受けているのに、トランプ氏は即座に州兵を送って彼らを救出しようとはしなかった。暴徒と警察官の割合は「50対1」だったという。その結果、5人(内死亡1人・自殺4人)の警察官が犠牲になり、約150人が負傷を負った。
トランプ前大統領でさえこれらの事実をフェイクニュースにはできないだろう。だからこそ、トランプ氏は1月6日から国民の目を逸らそうと必死になって、11月3日を民主党による「反乱の日」と呼んでいるのだ。
バイデンの次の一手、フィリバスターのルール変更
バイデン大統領はどのようにして民主主義を守り抜こうとしているのか。米上院では議員が登壇し、演説を長時間続けて意図的に議事進行を妨害できるルールが存在する。会期終了まで審議を引き延ばせば、法案を葬ることが可能だからだ。これをフィリバスター(議事妨害)と呼んでいる。
フィリバスターとは元来カリブ海の島々を侵略する海賊を指した。個人の最も長い演説は、南部サウスカロライナ州のストロム・サーモンド元上院議員の24時間18分であった。
上院議員100人のうち、60人以上の賛成票があれば討論を終結させることができる。ところが、現在民主党上院議員は50人(無所属を含む)なので、共和党上院議員のフィリバスターを阻止できない。
そこで民主党内ではフィリバスターのルール変更に関する議論が活発に行われている。その背景にあるのが、昨年共和党が支配する19州の州議会で成立した「投票抑圧法案」である。民主党を支持するアフリカ系ら少数派を標的にしているこの法案には、彼らの投票を妨げる狙いがあるといわれている。
バイデン氏は自身のツイッターに投票抑圧法案を「民主主義らしくない」と投稿し、それに対抗するために「自由投票法案」と「ジョン・ルイス投票促進法案」の成立を呼び掛けた(「バイデンの支持率は回復するのか?」参照)。同様にハリス副大統領も1月6日の演説で、「民主主義が危機にさらされている。投票の自由を保障するために連邦法が必要である」と主張して、上の2つの投票関連法案の早期成立を求めた。連邦法によって投票のルールを標準化するというのだ。
バイデンのフィリバスターに対する考え方
チャック・シューマー院内総務(東部ニューヨーク州)率いる上院民主党はフィリバスターのルール変更に意欲を示している。60票ではなく51票(副大統領の1票を含む)で討論終結ができる新たなルールに変更する考えだ。
36年間上院議員を務めたバイデン大統領は、フィリバスターのルール変更に消極的であった。おそらく権威主義国家とは異なり、民主主義国家では議会少数派にフィリバスターが与えられるべきだと考えているのだろう。
ただし今回は「自由投票法案」と「ジョン・ルイス投票促進法案」に対してのみ、例外としてルール変更に意欲を示した。その理由は、今秋の中間選挙において上院で共和党が多数派を奪還した場合、民主党はフィリバスターが必要になるからだ。