2024年5月15日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年2月21日

 リンカーンやキング牧師の言葉をちりばめ、建国の父たちに触れる、オバマ氏得意の美しい言葉の流れは、耳に聞こえはよいのですが、中身はルースが述べるように政治色の、それも民主党色の強い具体的な課題を述べたものであり、間違いなく、共和党への挑戦です。

 「皆で」「ともに」といった表現が多用されましたが、ブレマーが要約しているように、「ともに」オバマ氏の目標を遂行する、ことを求めた演説であったと言えるでしょう。

 NYTの論説者であり、保守派としてはオバマ氏を評価しているデービッド・ブルックスは、演説直後のテレビ番組で、プラグマティックで細かく、段階を追って積み上げて行く進歩主義をこれほど強烈に主張したのを聞いたことはない、クリントンもかなわない、と述べています。

 リベラルな課題として福祉の擁護、富裕者批判・弱者保護、移民問題、そして就任演説では初めて、同性愛者の平等、環境問題が取り上げられ、あきらかに共和党批判と思える個所が多々ありましたが、単に批判をするだけではなく、共和党の論を利用したうまさもありました。例えば、環境問題の部分では、科学を信じない人々もいるかもしれないが、他国に先駆け技術を磨き、森林や水流といった資産を守らなくてはならず、そうして神に託された地球を守るのだ、と述べています。これは、人間の活動による温暖化を信じない右派に対する挑戦ですが、神を持ち込み、反論しにくくしているわけです。

 共和党側には、当然、演説に対する批判があります。しかし、共和党は分裂し弱くなっているので、内輪もめをしている間に、進歩的アジェンダを強引に進められる可能性は否定しがたく、オバマ氏の就任演説は、まさにその狙いを堂々と述べているのです。

 こうして、オバマ第二期の就任演説を眺めてみると、リベラルな国内的課題に取り組むことばかりに熱心になり、外交安保政策が閑却され、あるいは、外交安保政策においてもリベラル色を強め、アジア復帰政策が有名無実化しかねないという懸念は、大いに理由のあることと言えるでしょう。

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